インボイスが経理以外も「ひとごと」ではない理由 対応次第で業務負担・税負担の大きさが変わる
さらに新制度への対応の仕方によって税負担が増える可能性もあり、その意味では経営判断にも関わってくる。
これまで企業は納税する消費税額について、同じ税率ごとに1年間の税込みの売上高や仕入れ高を集計し、その合計額から消費税率をそれぞれ掛けて計算する、「割り戻し計算」が一般的だった。
しかしインボイス制度の導入に伴い、消費税額を1つひとつ積み上げて計算する「積み上げ計算」も採用できるようになった(簡易インボイスを除く、売上高の消費税額算出に当たっては計算方法の併用が可能)。会社によっては、採用する計算方法によって税負担額が変わる可能性があり、どちらが有利かを考える必要がある。
まず、売り手側のケースを想定してみよう。インボイスに記載する消費税の1円未満の端数については、切り上げ、切り捨て、四捨五入のいずれかを発行事業者が任意で選択でき、一般的に切り捨て処理を行うことが多い。端数を切り捨てたうえで、割り戻し計算によって売上高に占める消費税額を算出する場合、少額の売り上げを大量に計上するような事業だと、積み上げ計算よりも課税額が多くなってしまうことがある。
クラウドツールで全部解決はできない
一方の買い手側はどうか。買い手側には、①インボイス積み上げ計算、②帳簿積み上げ計算、③割り戻し計算という3つの選択肢がある(売上高の消費税額を積み上げ計算で算出している場合、仕入れ高についても積み上げ計算にしなければならない)。
インボイス積み上げ計算は保存するインボイスに記載された消費税額などを、帳簿積み上げ計算は課税仕入れのたびに計上した仮払消費税額などを、それぞれ積み上げて計算する。インボイス積み上げ計算の場合、データ連携などの手作業なしで税額を取り込めるプロセスを構築しないと、実務負担が大きくなってしまう。
マネーフォワードの松岡氏によれば、「これらの長所・短所を理解せずに、なんとなくでインボイス積み上げ計算を採用している事例を多くみかける」という。売り手、買い手ともに、どの計算が税負担や業務負担を減らすのか、見極めが必要だ。
バックオフィス系のサービスを提供する企業はインボイス制度導入に際して、適格請求書の要件を満たしているかを判定するサービスなど、対応機能の拡充を図ってきた。しかしこれまで見てきた通り、現場が抱える課題や、混乱を招いている要因は多種多様だ。
「システムで自動的に解決できず、事業部とのコミュニケーションが必要な”イレギュラー”が出てくる。このような人間にしか対応できない問題により時間をかけるためにも、テクノロジーを活用していくことが重要ではないか」(マネーフォワードの松岡氏)
AI-OCR(人工知能を取り入れた光学式文字読み取り装置)で登録番号を読み取るクラウドツールなどを活用し、通常業務を効率化することは当然有用だ。イレギュラーな事態の発生への対応に備える余裕の確保にもつながるだろう。そのうえで、税負担や業務負担をいかに減らしうるか、経営の観点からの議論も重要となりそうだ。
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