紫式部が女部屋に侵入した男に取った大胆行動 和歌を送った紫式部、書かれたその内容とは?

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それはさておき、式部の家にも、方違えにやってきた者がいたようです。方違えのために式部が住む藤原為時の邸に泊まった男性が、その翌朝、明け方のまだ暗い時分に、為時の娘の寝室に忍んでいったと思われるのです。

その姿を式部は見たのでしょう。男も見られたことに気づいたようですが、その男は式部が歌に詠むように「空おぼれ」(空とぼけ)して、誤魔化したようです。

面白いのは、式部が先ほどの歌をその男に送っていることです。男からの返歌も載っていることから、そのことがわかります。

まず、式部の歌を訳してみましょう。「どうもはっきりしませんね。あなただったのでしょうか。それとも違ったのでしょうか。明け方の暗がりのなかで、顔をお見せになりながら、誰ともわからぬ振りをされて」というもの。

それに対し、男は「いづれぞと色分くほどに朝顔のあるかなきかになるぞわびしき」との歌を寄越したのでした。

「どちらから頂いた歌かといろいろと考えているうちに、たちまち朝顔の花は萎れ、色褪せてしまったので、見分けられなくて困っています」というような意味です。

「どちらから頂いた歌かといろいろと考えているうちに」と男が言うのには、理由があります。

式部には、年齢がたいして変わらない姉がいたのです。そのため、男は、式部の姉から送られた歌なのか、式部自身から送られた歌なのかわからないといろいろ考えていたというのです。

式部は、この男の返歌に「手を見分かぬにやありけむ」(どちらの筆跡か見分けがつかなかったらしい)と注釈を付けています。

女部屋に忍んできた男に和歌を送る

それにしても、女部屋に忍んできた男に、和歌を送り付けるとは式部も大胆です。男性のほうから歌を送ることは多々あったでしょうが、女性から送るというのも珍しいと言えるでしょう。

しかも、普通ならば、急に忍んできた男に嫌悪感を持つか、気味が悪いと思うものですが、式部にはそれがなかったようです。実にあっけらかんとしています。

面白がって、男をからかっているようにも見えます。もっと言うと、歌を送るということは返歌を期待してのこと。その後もやり取りが続く可能性もあります。

式部はその男に関心も持ち、恋愛関係になってもいいくらいに思っていたのではないでしょうか。式部とこの男とのやり取りをもっと「過激」に解釈する人もいます。

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