(第4回)低価格製品シフトは製造業を衰退させる

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新興国での利益率はもっと高くなるはず

これまでは円安が続いていたので、外国から見た日本の賃金は低く抑えられていた。そのため、海外移転の必要性は緊急の課題ではなかった。しかし経済危機後に円高が進み、ドルで評価した日本の賃金は上昇した。だから海外生産の有利性が高まった。過去およそ10年停滞していた海外移転が急に進み始めたのは、このためだ。とりわけ労働力を多用する組み立て型製造業の海外移転が進んでいる。そして、その傾向は加速している。

前回述べた経産省のアンケート調査で、「低賃金が理由」との回答は、表向きはさほど多くない。しかし実際には、アジア新興国の低賃金が海外移転の大きな要因なのだ。

ただし、「売上高利益率が6・5%だから有利」とは必ずしもいえない。新興国での低賃金労働力を活用すれば、本来は利益率がもっと高くなっていてしかるべきなのだ。日本の海外生産は、新興国の低賃金労働を十分に活用しているとはいえない。その理由を以下に述べよう。

「国民経済計算年報」の「経済活動別財貨・サービス投入表(U表)」によると、製造業の場合、100の産出額に対して、雇用者報酬は約20、営業余剰は約6である(この数字は00年のものだが、生産技術的な関係を示すものであるので、現在でもあまり変わらないと考えることができる)。ここで、「低価格製品の生産においては、産出額の縮小に比例して雇用者報酬と営業余剰が縮小する」と仮定しよう(この仮定の妥当性は、後で検討する)。

前述の「従業員1人当たり売上高」の数字を参照して、中国で生産される製品価値は、日本の3分の1であるとしよう(後で示すように、この数字は結果に影響しない)。すると、33・3の産出額に対し、雇用者所得が約6・7で営業余剰は2になる。しかし、中国の賃金水準は低いので、雇用者所得として6・7を支払う必要はなく、差額を営業余剰に回せるものとしよう。

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