では、理研はなぜ伊丹氏を採用するのか。
国立大学であれば教授会があり、一般的に人事などの重要事項はそこで審議する。不正論文に関わり、JSTやJSPSからペナルティを受けている最中の研究者の採用を諮れば、多数の反対が出る可能性が高い。そのため、少なくとも今のタイミングで伊丹氏を研究室の主宰者として受け入れることは国立大学では難しいだろう。
他方、理研にも一応、研究センターごとにセンター長・本部長や主任会の議長、副議長、複数の主任研究員らで構成する人事委員会というものが存在する。ただ、理研関係者は「委員会のメンバーの一人一人の権限は、教授会と違って同等ではない。センター内の権力者の意見で人事が決められることが多々ある」と話す。
結果として、権力者とコネがある研究者や、権力者の言うことを聞きそうな研究者が採用されることが起きやすいという。
STAP細胞事件の反省と矛盾
理研といえば、大騒動になったSTAP細胞事件を真っ先に思い浮かべる人が今でも多いはずだ。若手の女性研究者で論文の筆頭著者だった小保方晴子氏が研究結果をねつ造したと認定されたが、責任著者らの責任も重いとされた。その一人であり、小保方氏を指導する立場にあった副センター長(当時)の笹井芳樹氏が、自殺する事態にまで発展した。
理研がSTAP細胞事件を受けて2014年4月に発表した再発防止策では、「研究室主宰者の選考過程の点検と、採用、登用のあり方の改善」「若手研究者に対する指導体制の改善」「複数の研究者、研究グループ等にまたがる研究成果に関して責任著者が果たすべき役割の明確化」などが挙げられていた。
それからちょうど10年になる今春。名大の不正論文事件で研究室の主宰者、論文の責任著者としての役割を果たせなかった伊丹氏を、理研が研究室の主宰者として迎え入れることは、ガバナンス意識への重大な疑義を招きかねない。
理研に一連の問題点について見解を質すと、広報担当者は「一般論として、真に必要な人材を公正な書類選考及び面接選考により採用している。研究の健全性・公正性に対する姿勢についても審査を行っている」としつつ、「個別の人事採用に関しては回答を差し控える」とのことだった。
今回の人事は、理研の国際的な信用力をさらに傷つけてしまうのではないだろうか。
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