「半導体ウェハー2強」信越とSUMCOで株価に明暗 2023年上昇率は信越が70%超、SUMCOは19%
この分野では韓国の大手メモリーメーカーであるSKハイニックスが一歩リードし、サムスン電子は出遅れている状況。HBM需要をめぐって、顧客の動向にウェハー需要の見通しが左右されているという面はありそうだ。
2社の株価上昇率の違いは「経営力」の差にあるとの見方もある。
下の図は、両社の前年比での営業利益の増減率を表したものだ。0%のラインを超えていればその年度は前年度比で増益、下回っていれば減益だったことを示す。塩化ビニル樹脂なども手がける信越については、ウェハーを手がけるセグメントの数値を基にした。
利益の安定性の違いは一目瞭然。信越のウェハー事業は、半導体市況で数年おきに繰り返す「シリコンサイクル」の谷の時期であっても安定的に利益成長を続けている。対するSUMCOの業績は、好不況の波に大きく影響されて極端に変動している。
投資タイミングの正確さ
信越は、業績が安定している理由について「顧客と長期契約を結んでいるため」と説明する。これは、供給するウェハーの数量・価格を数年先にわたって事前に取り決めるものだ。
SUMCOも現在は、主力の300ミリウェハーでの長期契約比率が100%。橋本会長は「(市況の低迷局面でも)顧客には数量と価格は厳守してもらっている」と決算説明会のたびに説明している。それでも利益変動が大きくなるのは、好況期により多くの需要に応え、不況期にはその反動減の影響を受けるからだ。
長期契約は今や業界全体での主流。ただし信越は、比較的早い段階から取り組み始めていたとされる。
加えて前出の岡嵜アナリストは、業績の安定につながる点として「信越は先を見据える力が格段に高く、投資タイミングの正確さでも市場からの信頼が厚い」と話す。2019年の前回の半導体不況時にもその先見性が発揮された。
2017年まで半導体業界は活況に沸いており、ウェハー需給も逼迫していた。この時にSUMCOは半導体メーカー側からの要請もあり、当時約10年ぶりとなる増産投資を決定した。だが稼働直後の2019年に市況が暗転。2020年にかけて大幅な減益に見舞われた。
一方の信越は、公にしていないものの2015年時点ですでに増産に踏み切っていたとみられる。結果、市況の影響を最小限に抑えウェハー事業での増益を確保し続けた。
信越のこうした投資判断について関係者が口をそろえるのは、「故金川千尋会長のノウハウがしっかり継承されている」ということだ。
1990年に社長に就任した同氏は、20年以上にわたって経営に携わったカリスマ経営者。とくに塩ビ事業では、他社が増強投資に二の足を踏む不況期においても正確に将来需要を見通したうえで「逆張り投資」を続け、後発ながら世界トップのメーカーに育て上げた中興の祖といえる存在だ。
2022年後半以降の半導体業界は不況期だったのは前述したとおり。そういうタイミングでは信越のほうが株式市場からの信頼を集めるのも頷ける。
株主還元の期待も影響か
株式市場の視点でいうと、株主還元強化への期待でも両社には差がありそうだ。
信越は、現在の斉藤恭彦社長になった2015年度以降、それまで20円で一定だった配当を8期連続で増配。さらに、総資産の3割超に上る1.4兆円の現金を保有しているキャッシュリッチ企業でもある。2018年度からは1000億円単位での自己株買いも行っている。
SUMCOのキャッシュ比率もこれまでの半導体特需の影響で足元では一時的に3割程度に高まっている。とはいえ保有現金は、会社規模の違いもあって信越を大きく下回る2500億円という水準だ。
半導体市況の好不況にかかわらず安定的に稼ぐ信越、業績のブレが大きく会社の規模で劣るSUMCO、という図式を踏まえれば、還元余力という点でも信越への評価が高まっているのではないか。
ウェハー市況が回復に向かうと想定される2024年。両社に対する株式市場の評価に変化がみられるかも注目だ。
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