のと鉄道はなぜ、観光列車を優先したのか 朝ドラ「まれ」の街で鉄道会社が下した決断
少々意地悪い予測を立てた後、のと鉄道に理由を聞いてみると、普通列車の運休は列車ダイヤの編成上にまつわる困難から生じたものであった。前述のとおり、「ゆったりコース」は途中で速度を落とすため、七尾―穴水間を1時間10数分と、通常の普通列車よりも30分近く時間を要する。長々と線路を占有する「ゆったりコース」に相前後して普通列車を走らせようにも、七尾―和倉温泉間ではJR西日本から特急列車が乗り入れてくるためにこれ以上増発できないし、和倉温泉―穴水間でも途中駅での行き違い設備の関係でやはり列車の増発は難しい。
事前に地元から承諾得たはずが……
ならば、「ゆったりコース」に普通列車用の車両を1両連結して対処するとの考えもあろう。しかし、車両のやりくりの関係で増結は難しい。結局、利用客の非常に少ない普通列車の運転を取りやめることで何とか運転にこぎ着けたのだそうだ。
普通列車を運休させるに当たり、のと鉄道は関係する自治体はもちろん、通学定期の利用客である沿線の高校にも担当者が出向いて事情を説明し、事前の承諾を得た。もちろん利用者への告知もきちんと行っている。それでも、普通列車が運休になって乗車できないとの苦情がこれまでにも何件か寄せられたそうだ。
車両や施設といった制約があるなか、地元の足を確保したうえで観光客を呼び込む取り組みはJR九州で行われている。肥薩線の人吉と吉松との間を行く観光列車の「いさぶろう・しんぺい」だ。この列車には観光客向けの指定席が設定されているほか、沿線の利用客を対象に自由席が用意されており、観光列車を運転する代わりに廃止となった普通列車の役割も果たしている。のと鉄道の沿線の人たちにとって「ゆったりコース」は所要時間が長いという難点はあるものの、この列車に通常の運賃で乗車してもらうという策も考慮してよいであろう。
実は、2両編成の「のと里山里海号」の正式な定員は84人と設定された指定席の数よりも10人多い。窓のない戸袋部分に設けられた腰掛を指定席としていないからで、沿線の利用客には恐縮ながらこのような場所に乗車してもらってはいかがであろうか。
今後、のと鉄道は沿線の利用客からの意見を踏まえて列車ダイヤの修正といった改善策を施すそうだ。どのような方策が採用されるにしろ、誕生したばかりの観光列車を立派に成長させてほしいものだ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら