公安と検察の捏造に言及不足の大川原化工機判決 冤罪逮捕の社長らへの捜査の違法性は認める

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今回の賠償訴訟では、公安部の取り調べのあり方も問題になった。判決では、取調官が違法な手法を用いて、供述を得ようとしたことを事実として認定した。

安積警部補が大川原化工機の島田順司取締役(当時)に、殺菌の解釈を誤解させたうえで供述調書に署名捺印するように仕向けたことについて、判決は「偽計を用いた取り調べといえるから国賠法上違法」とした。

島田氏の逮捕直後に弁解録取書を作成する際、島田氏の指摘に沿った修正をしたように装い、実際には島田氏が発言していない内容の同書を作成し署名捺印させたのも、「島田氏を欺罔(ぎもう)して島田氏の自由な意思決定を阻害した弁解録取書の作成であり国賠法上違法」と踏み込んだ判断を示した。この点は高田弁護士も評価している。

こうした偽計や欺罔は、事件を捏造するためのものに違いない。しかも、時友氏と同様に捜査にあたった濱崎賢太警部補が法廷で「(事件は)まあ、捏造。逮捕・勾留の必要はなく、起訴する理由もとくになかった」とまで証言している。

それでも、東京地裁の桃崎裁判長は捏造の構図にまでは踏み込まなかった。判決文には事件を指揮した張本人・宮園警部の名前すら出てこない。

謝罪と検証は急務

「警視庁と検察庁には、できれば謝罪と検証をお願いしたい」(大川原社長)。「2度と起こさせないために再発防止の検証をしていただきたい。それで今回の訴訟の目的が達成される」(島田取締役)。原告の大川原社長や島田取締役は、謝罪と再発防止のための検証を求めている。

大川原化工機事件半血を受けての記者会見
判決後に開かれた記者会見の席には、大川原化工機元顧問の相嶋静夫氏の遺影が置かれた。相嶋元顧問は大川原社長や島田取締役(当時)らとともに逮捕。勾留中に胃がんが発覚、起訴取り消し前の2021年7月に他界した(記者撮影)

今回の判決が「必要な捜査を尽くしていないこと」を骨子とし、捏造の構図まで踏み込んでいない以上、「今後はいっそう捜査を尽くす」の警視庁や検察庁の幹部の一言で片付けられるおそれがある。

だが、警視庁公安部や東京地検は大川原社長らに謝罪し、自ら検証をすべきではないか。自浄能力を発揮しなければ、公安部や地検の捜査に今後、国民が協力しなくなるかもしれない。そのことこそが捜査当局にとって避けるべき最悪の事態に違いないからだ。

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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