生成AIの「無断学習」を規制するうえでの論点 強く規制することにはデメリットも

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一方、技術発展の異常なほどの速度を目にしている研究者の視点では、これらの技術的な問題については、おそらく中長期的には解決されるものと思っています。文字数の制限という点で言えば、本記事を執筆した短い期間でも、よく使用されるモデルで数倍、ある特定のモデルでは数百倍以上の性能改善をしたとの研究が出てきています。

また、2023年12月6日にはGoogle社が、こうした課題のいくつかを解決した「Gemini」と呼ばれる生成AIモデルを公開し、12月13日には「Gemini Pro」のプレビュー版を企業と開発者向けに提供開始しています(いずれもアメリカ時間)。

アイディアさえあれば、なんでも実現できる?

技術は人ができることを拡張するものです。

技術の1つである生成AIも、個人が実現できる限界を拡張する範囲は非常に広範におよびます。「アイディアはあるが、それを実現する能力がない」という人は多くいます。

よく実現されないアイディアには価値がないと言いますが、実現すれば価値が生まれるアイディアが埋もれてしまっているのなら、世界にとっての機会損失です。反対に、実現能力や金銭、人脈などの問題で実現されなかった世界中の人の頭の中のアイディアが、もし生成AIによって解放されれば、それは世界全体にとって大変価値があることです。

奇抜なアイディアを思いついたプログラミングの初心者が、世界的に活用されるアプリ・ソフトウェアをつくってしまうかもしれません。音楽、グラフィック、シナリオなどのすべてを個人が担当して、ハイクオリティなゲームをつくることもできるでしょう。アニメや映画のような集団で製作される作品も、一人でつくれるようになるかもしれません。

長期的には、生成AIの助けを借りて作成されたコンテンツが当たり前となった、新しいプラットフォームのようなものが出てくる可能性もあります。

生成AIによる生産性の向上は、多くの人が納得している事実だと思います。言語生成AIなどを日々の業務に組み込むことで、今までは人間がやっていた多くのことが自動化され、より短時間でこなせるようになります。本来は人間が行っていた作業がなくなるわけですから、人間は別の活動に時間を割けるようになります。

そしてそれは、人間にしかできない活動になるでしょう。

業務であれば、ルーチン的な事務作業や資料作成ではなく、根本的な事業改革のアイディアを生み出すことや、社会や人類の未来に対してどう貢献すべきかを考え直すことなどです。

生活レベルで言えば、人付き合いに割く時間や、個人が「楽しめる」時間を増やすことでしょう。それはゲームでも動画鑑賞でも読書でもなんでもいいはずです。AIは人間の代わりに仕事をやってくれますが、人間の代わりに楽しむことはできません。

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