首相が伝家の宝刀を抜く最大のチャンスは、2023年6月の通常国会閉会前にあった。
前月のG7(主要7カ国)広島サミットで、議長を務めて「世界の岸田」をアピールして支持率も上昇し、いざ勝負、というときに長男で首相秘書官に抜擢した翔太郎が「文春砲」にやられ、マイナンバーカードの健康保険証ひもづけトラブルも相まって岸田は、宝刀を抜き損ねた。このときの支持率は35.1%で、現在の倍もあった。
当時は「秋の臨時国会冒頭で解散に踏み切るのでは」との観測も流れたが、「幸運の女神には前髪しかない」のは、永田町でも同じ。
師走に燎原の火のように広がった政治資金パーティー券事件がダメ押しとなって、首相の解散権は事実上、封じられた。
「支持率1割台で決断できるわけがない」
「支持率3割台後半でも解散に踏み切れなかった男が1割台で決断できるわけがない」という奇妙な安心感が、与野党に広がったのだ。2023年から2024年にかけての年末年始、永田町の話題は、「安倍派五人衆のうち誰が摘発され、誰が逃げ切れるのか」という一点に絞られている。
12月26日現在、五人衆のうち前経産相、西村康稔を除く4人が、東京地検特捜部から事情聴取されたことが報じられた。
このため「特捜部は西村を本命にしているのでは」「いや、西村は既に聴取に応じて司法取引したのでは」といった根拠のない揣摩臆測が渦巻いている。
35年前のリクルート事件では、リクルートコスモスの未公開株を首相、竹下をはじめ宮澤喜一、渡辺美智雄、森喜朗ら当時の有力政治家や関係者が軒並み譲り受けたのが発覚しながら、立件された議員は元官房長官、藤波孝生ら2人だけ。
今回も「特捜部は見せしめにバッジ(議員)を2人以上生贄にするはず」(自民党関係者)との見方が専らだ。安倍派内では誰が「生贄」に選ばれるか戦々恐々としており、選挙どころの話ではない。