「ポスト合弁時代」で岐路に立つ日本車メーカー ガソリン車時代に築いた地位ではもう戦えない

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三菱自動車の中国事業撤退は、サプライヤーにも影響を与えている。金型費を含む部品・部材の未払金について、合弁相手の広州汽車は地場サプライヤーに対して金額の45%程度を支給し、日系サプライヤーにも同様の水準を提示。「国有大手と交渉の余地はない」と、日系サプライヤー幹部がため息をついた。

中国では、外資自動車メーカーの事業展開は、現地の合弁相手との議論が避けられない。1994年に公布された「中国自動車産業政策」は、外資企業の中国での自動車生産を合弁形態でのみ許可し、「合弁相手は2社まで」「出資比率は上限50%」といった制限が設けられていた。

この長年続いた産業保護政策は、2022年に撤廃。ドイツ・BMWは中国の乗用車合弁メーカー華晨宝馬汽車への出資比率を50%から75%に引き上げ、規制緩和を受けた第1号となった。

トヨタがBYD TOYOTA EV TECHNOLOGY カンパニーなどと共同開発し、2023年上海国際モーターショーで公開したbZ Sport Crossover Concept(筆者撮影)
トヨタがBYD TOYOTA EV TECHNOLOGY カンパニーなどと共同開発し、2023年上海国際モーターショーで公開したbZ Sport Crossover Concept(筆者撮影)

日系合弁企業の合弁契約期限をみると、一汽トヨタと広汽ホンダはともに5年後の2028年になり、その他日系合弁メーカーは2030年以降になる。今後、日系自動車メーカーはパートナー契約を継続する前提で、既存の合弁事業を再検討するだろう。

このため、合弁相手の中国企業との良好なパートナーシップを維持する必要がある。また、経営の自由度を高めるため、独資や地場異業種企業と合弁でBEV生産子会社の設立も視野に入れる必要が出てくるだろう。

自動車も家電、パソコン、スマホのように

ガソリン車時代は、合弁メーカーが製品力とブランド力を武器に中国市場で圧倒的地位を構築してきた。ここにきて、中国勢がNEV市場で先行する一方、モノづくりも急速にキャッチアップしてきている。中国自動車産業は“ポスト合弁時代”となり、合弁メーカーが岐路に立っている。

また、中国自動車業界では、NEVシフトによりメーカーの淘汰も進んでいる。各社が生き残りを目指し、熾烈な競争を繰り広げており、海外市場を求めようと輸出が増えている。家電、パソコン、スマホなどがたどった道を思い起こすと、自動車市場においても外資の中国事業の縮小や撤退が予測される。

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今後はテック企業の参入、自動運転技術の進化などにより、「クルマのスマホ化」が車両の付加価値となる一方、中国で予想外の変化が起きる可能性がある。それだけに政策の動向、技術・市場の変化を注視しながら、日本自動車メーカーが中国事業に臨むべきであろう。

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湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、中国自動車業界のネットワークを活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。大学で日中産業経済の講義も行う。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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