任天堂の「Wii U」は血みどろの戦いを覚悟したのか?《それゆけ!カナモリさん》

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■3つ巴のレッドオーシャンとなった市場で勝ち抜くためには…

 気になるのは、Wii Uには、ターゲットやポジショニングのぶれが垣間見えることだ。

6月9日付日本経済新聞に「戦略分析」という記事で、任天堂・岩田聡社長のインタビューが掲載されている。サブタイトルに「高性能で巻き返し」とある。記事中ではYOMIURI ON-LINE同様に、「幅広い顧客層の獲得を目指す」とある一方、『「Wii」は家族が主な顧客層だったが、新型機は高画質な映像などで、熱心なゲームファンを引きつけたい考えだ』ともある。

実際、「MS(マイクロソフト)やSCE(ソニー・コンピュータエンターテインメント)のゲーム機に比べ見劣りしていた画像の表示性能も高める」とある。WiiのポジショニングかつUSP(Unique Selling Proposition=自社独自の提供価値)は、映像の美しさではなく、「体感」できること、それを用いて「家族や仲間とワイワイ楽しめる」ということだ。

恐らく開発陣も頭を悩ませたのが、その「体感」がもはやUSPとはなり得ていない現状だろう。昨年11月に発売されたマイクロソフトの「キネクト」。Wiiがリモコンを通じて身体の動きをゲーム機本体に伝えるのに対し、ゲーム機Xboxにプレイヤーの身振り手振りや音声を検知して操作を可能にする入力端末が「Kinect」だ。「発売してから販売台数1000万台を超えた」(6月9日付日本経済新聞)という。任天堂はWiiの性能を高め、Wii Uに進化させることで、競合とのガチンコ勝負に戻ってしまった。

任天堂「Wii U」がレッドオーシャンを戦い抜く、もしくはそこから抜けてブルーオーシャンを見つけるためには、高性能なゲーム機のプラットフォームの上で動く良質なソフトで、「誰に」「どのような体験」を提供すればいいのかを、今一度立ち止まって考えてみることが求められる。

まだ未発売なので、そこにどれだけの未知の可能性がつまっているハードウェアなのか、まだ判断がつかない部分もある。任天堂VSマイクロソフトVSソニー・コンピュータエンターテインメントの3つ巴の戦いの行方を追うだけでも、頭の体操になる。

あなたが、任天堂の指揮官だったら、誰にどんな価値を提供するだろうか。

《プロフィール》
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2011年6月17日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。

 

金森 努 青山学院大学経済学部非常勤講師

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かなもり つとむ / Tsutomu Kanamori

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
 

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