パワー半導体でもニッチを攻めるミネベアミツミ 手綱を取るのは事業売却方針を一転させた人物
関東近郊のホテルで、矢野氏はミネベア社長だった貝沼氏と向き合い、アナログ半導体事業の必要性を訴えるプレゼンに臨んだ。
実はミネベアには半導体に苦い思い出があった。1980年代にデジタル半導体の製造に参入したが、技術革新のスピードについて行けず、事業を他社へ譲渡していたのだ。
その過去を知っていた矢野氏は、「とにかくデジタルとアナログの違いを理解してもらおうと必死だった」と振り返る。
「半導体」と聞いて一般的にイメージされるのは、CPU(中央演算処理装置)やメモリーなど計算や記憶をつかさどるデジタル半導体だろう。回路の微細化が進み、最先端の設備がなければ作れないため、莫大な額の投資が必要になる。
ピリリと辛い山椒のような存在感
一方、アナログ半導体は、音や光などの数値化されていない情報をデジタル信号に変換する役割を担う。人間の機能にたとえると、デジタル半導体は脳、アナログ半導体は視角や触覚などに該当する。製造方法も異なり、アナログ半導体で最終的な性能の優劣を決めるのは、技術者の腕だという。
「簡単に言うと、デジタル半導体は、小さなレゴブロックを並べたり積んだりして作るイメージ。アナログ半導体は、さまざまな形状の電子部品を少しずつすり合わせ、1つに形成していく」(矢野氏)
つまり、アナログ半導体は職人芸で勝負できる分野なのだ。この点、矢野氏には確かな自信と自負があった。こう貝沼氏を口説いたという。
「ミツミ電機には、すごい技術力があります。たとえ小粒だとしても、ピリリと辛い山椒のように、ニッチ分野では必ず存在感を示せます。大海ではなく、湖でいちばん大きな魚を目指しましょう」
矢野氏はもともと、半導体設計の技術者だ。1985年に日立の半導体子会社「日立北海セミコンダクタ」へ入社。当初はデジタル半導体を手がけたが、転機となったのは2004年だった。ミツミ電機が北海道千歳市の事業所を譲り受け、矢野氏も移籍。そこでアナログ半導体と出会った。
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