コスモ株を電撃取得、岩谷産業は「救世主」か? 旧村上ファンドとの対立収束も厳しい市場評価

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岩谷産業は1941年、創業者・岩谷直治氏の「必ず水素の時代は来る」との信念から、硬化油メーカーから余剰水素を買い取って需要家に販売を始めた。いまや水素は石油精製の過程やプラスチックなどの添加剤、半導体や液晶パネルの製造には欠かせないガスになっている。 

創業者からの指名で、2000年に社長に就任したのが牧野会長兼CEO。2006年には国内最大の液化水素製造プラントを稼働させるなど水素事業の旗振り役を務めてきた。その結果、岩谷産業の産業ガス売上高1336億円(2023年3月期)のうち14%を水素が占め、特殊ガス市場で岩谷産業の水素シェアは70%、液化水素の売上シェアは100%を占める。

岩谷産業は水素関連の売上高約200億円を2030年までに2000億円とする構想をぶち上げている。そのためにはこれまでの産業用途に加え、燃料電池トラックなどの需要拡大が欠かせない。そのカギとなるのが水素ステーションだ。

岩谷産業は水素ステーションの拡大に今後5年間で330億円を投じる計画だ。コスモとは2003年頃から水素ステーション設置で協力関係にあり、約2650カ所(2023年3月末)あるコスモのサービスステーションに水素ステーションを併設していく可能性もある。

株価下落は「説明せよ」との市場からの督促

しかし、水素ステーションはそもそも赤字事業だ。「政府は2030年までに水素ステーション1000基設置などをうたうが足元は160基程度。踏み込んだ政策がなければ普及はおぼつかない」(業界関係者)。

一方、荻野氏は、「岩谷産業の水素戦略全体でシナジーを考えている可能性がある」と話す。岩谷産業は、水素の海外製造や輸送・受け入れ基地の整備、パイプライン敷設といった水素供給網構築のため、2027年度までに1780億円を投資する計画だ。この戦略全体でコスモと協業していく可能性がある。

ただ、水素供給網の構築は川崎重工業やENEOSと進めている。なぜ、コスモと事業提携だけでなく、1000億円超を投じて持ち分適用化するのかは不明瞭だ。

「政策保有株の縮小を求められる中、シナジー効果がゼロなのは事業会社としてありえない。株価が下落したのは、シナジー効果を説明せよとの市場からの催促だ」と荻野氏は指摘する。

コスモ株取得の真意はどこにあるのか。岩谷産業は早期に明らかにする必要があるだろう。

森 創一郎 東洋経済 記者

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もり そういちろう / Soichiro Mori

1972年東京生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科修了。出版社、雑誌社、フリー記者を経て2006年から北海道放送記者。2020年7月から東洋経済記者。

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