FRBは2024年春に本当に利下げを開始するのか? 市場は先走りすぎ、米国株の上昇余地は限定的

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問題は、インフレの低い伸びが一貫して続くかどうかである。直近である10月分のインフレ率は、宿泊料金など、振れが大きい一部の品目で押し下げられている部分がある。このため、今後1~2カ月のアメリカのコアインフレはやや高めにでてくる可能性がありそうだと、筆者はみている。

とすれば、インフレの趨勢が2%台に抑制されているとFRBが強く認識できるようになるのは、2024年央ではないかと現状は考えている。このように見ていくと、春先までの利下げ織り込みは、「先走り」すぎのようにみえる。

また、インフレの低下が十分ではなくても、仮に労働市場が急激に失速して、FRBが利下げに転じるという展開もあり得る。利上げの引き締め効果が経済活動を抑制している兆候は、いくつか報じられている。

ただ、アメリカの10~12月期の経済成長率は、高成長だった前期からさすがに減速しているものの、年率1.5%程度の成長率を保っているとみられる。企業の景況感指数などは、夏場からほぼ横ばいでの推移が続いている。米国経済に変調が訪れているというよりは、緩やかな減速経路を辿っているという状況だと判断される。

2024年春利下げ実施には「2つの高いハードル」

春先までにFRBが利下げに転じるには、経済活動が急失速に転じ、かつ年率2%台でのインフレ減速が途切れなく続く、という2つの条件がそろうことが必要になるだろう。現状では、その可能性は高くないように思われる。急ピッチに強まった早期の利下げ期待は、いったんは後退する可能性が高いのではないか。

こうした中で、米国株市場は、10月末から急反発した後、早期利下げ期待が強まる中で、高止まりが続いている。短期的には早期利下げ期待が「行きすぎの領域」にまで入っているとみられ、金融政策への期待に起因する一段の株高の余地は限定的になりつつある。

一方で、2023年央からインフレ抑制が続く中で、FRBによる利下げを想定できる状況に変わりつつあることは、2024年の株式市場の動向を考えるうえで、重要な変化だろう。筆者は同年については高インフレが緩やかに落ち着くが、FRBは政策転換にあたっては、かなり慎重に判断するのではないかと考えていた。高インフレ再来への懸念で、柔軟な政策対応を行うことが難しくなるからである。

ただ、最近のウォラー理事らの発言を踏まえると、筆者などが想定するよりも、FRBは経済情勢の変化に応じた柔軟な政策対応を繰り出そうとしているのかもしれない。この点は、2024年の米国株の下振れリスクを緩和する要因になりそうである。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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