仇敵・島津久光を屈服させた西郷隆盛「人望」の力 言葉を介さず存在そのもので納得させる凄み

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倒幕という目標を持った長州や薩摩も、「藩」という小さい世界をベースに行動していました。そして倒幕の機運が高まっていく中で、最初に新しい世界観を提示したのが土佐の坂本龍馬でした。

龍馬は早くから土佐藩を脱藩して横断的に活動していたので、高い視座から「日本」を見ることができました。龍馬の世界観は、「藩」を超え、「身分」を超え、誰もが平等に日本という国の方針を決めることができるというものでした(アメリカの議会民主制に影響を受けたものといわれています)。

しかし、龍馬は志半ばで兇刃にたおれます。その龍馬の後を継いだのは、西郷隆盛であり、大久保利通であり、木戸孝允でした。彼らは、政権交代という現実のもとに新しい国づくり、新しい世界観を構築していきます。

廃藩置県で大名の「最大の利権」を解体

明治政府が目指したのは、欧米列強に侵食されない国づくりです。環境の危機が、彼らの世界観をつくっていきます。龍馬の理想と彼らの世界が同じだったかどうかは微妙でしたが、向かう道は同じでした。新しい日本をつくるためには、それまでの「藩」の集合体による連邦国家の体制や、身分に囚われた人材登用では限界がありました。

そして、その最大の改革が廃藩置県でした。大名と藩という最大の利権を解体したのです。そこには幕府を倒した功労者である薩摩藩や長州藩も含まれました。この難題を誰が担当するのか。明治政府の要職につく者は、ほとんどがかつては身分の低い武士です。時代が時代であれば殿様など一生見ることができなかったかもしれません。かつての主君に、握っている権力を手放すように言わなければならないのです。

これを担当したのが、西郷隆盛でした。西郷は、明治維新で最大の功績のある薩摩藩から、廃藩置県を行うための版籍奉還(藩主が領地と人民を朝廷に返すこと)を行わせることにしました。その交渉相手は、西郷にとっては主である島津久光です。

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