夫と死別、70代女性につきつけられた残酷な現実 戸建てを売って生活を楽しみたいだけなのに

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快適な新しい生活をイメージしなければ、ご主人を失った喪失感とこの大量の荷物の整理に心が折れそうだったのです。

息子たちに片付けを手伝ってもらいながら、家中の荷物が半分くらいになった頃、そろそろ部屋探しをしてみることにしました。

条件は、前から考えていた駅近のアクセスの良いエリア。広さは40平方メートルほどで、家賃は12万円までとしました。

真千子さん自身の年金は、専業主婦だったため遺族年金を受給したとしても、それほど多くはありません。それでも年金で生活すれば、足りないのは住居にかかる費用だけです。

膨らんだ夢が一気にしぼんで

家を売却すれば、安く見積もっても数千万にはなるでしょう。あとはご主人が残してくれた株式や現金等の金融資産が5000万円以上あります。最後はもしかしたら有料老人ホームに入所するかもしれないので、この10年ほどの間は賃貸に住む、としての予算組みでした。

子どもたちも自立しているので、相続で遺すことをそれほど考える必要もありません。気に入った物件があれば、場合によっては、もう少し家賃を出してもいいかしら……。そう夢を膨らませていました。

都心まで電車で30分以内の、落ち着いた雰囲気でありながら商店街も残る町の賃貸仲介店舗。荷物の片付けから少し解放されたくて、気分転換に立ち寄ってみました。はやる思いと裏腹に、ドアを開けた瞬間、真千子さんは自分が場違いなところに来てしまったのでは、という印象を受けたのです。

店舗には若く、髪の毛を明るく染めた男の子たちがパソコンに向かっていました。一斉に顔を上げて真千子さんを見た瞬間、「あれっ」と怪訝そうな表情です。

「お部屋を探しているんですけど」

消え入りそうな声を振り絞ってみましたが、聞こえたのかどうかすらわかりません。ドアのところで立ちすくんでいると、1人の年配の男性が近づいてきました。

「お母さんがお部屋を探されているんですか?」

そう言いながら、カウンターの席に誘導してくれました。

真千子さんは、そこからのことをほとんど覚えていません。いろいろ質問され、真千子さんも自分の希望を伝えようとしましたが、頭に残っているのは「部屋は貸してもらえない」ということでした。理由も聞かされたのですが、頭には入ってきません。

とにかく逃げるように、家に戻りました。

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