夫と死別、70代女性につきつけられた残酷な現実 戸建てを売って生活を楽しみたいだけなのに

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「不動産屋が言うのもなんですが……。条件に合う賃貸に住むことは、難しいと思います。それならば、今の戸建てを売却して、駅近の資産価値の高いマンションを購入されたらいかがですか?」

中西さんからそんなアドバイスを受けました。

マンションを購入するとなると、買ってからも月々の管理費や修繕積立金も必要になりますが、一戸建てだって維持費もかかります。

一人住まいができなくなったときに老人ホームに入所することを考えると、売りやすかったり、貸しやすかったりする物件なら、それほど資産価値を下げることにはならないでしょう。

誠さんも最初は複雑でした。誠さんは大学教授。弟は大手商社マンです。世間的にはちゃんとした息子が2人もいて、亡くなった父親も銀行マン。母親は高齢とはいえ、恵まれた環境だと思っていました。だから部屋を借りられないだなんて、思いもしなかったのです。

きっと1人でいきなり仲介の店舗に行ったからだ、くらいに思っていました。でも、中西さんの口からいろいろ聞かされると、確かに借りることは難しいと思い始めました。

考えた末、母親の望むような物件を借りられないならと、少し息子として情けない気もしましたが、真千子さんの背中を押すことにしました。

分譲を選んだ真千子さん

結局、真千子さんは、中西さんの力を借りて家の売却と駅近のマンションの購入を無事に終え、引っ越しをすることができました。

『あなたが独りで倒れて困ること30』(ポプラ社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

家の売却代金とダウンサイズしたマンションの購入金額はほとんど変わらなかったので、手元の現金を減らすことにはならず老後の資金も心配なさそうです。もちろん上を見ればキリはありませんが、日々の生活は年金でやりくりすれば、貯金をどんどん食いつぶすこともせずにすみそうです。

ただ、もし同じような物件を借りられていたら、毎月家賃分を貯金で賄うことになるのでしょうが、もう少し現金が手元にあったのにな……と、残念でなりません。

まさかお金があっても賃貸物件を借りられないだなんて、もっと早くから知って人生設計すべきだったと反省しきりです。孫のことなどを理由に転居を先延ばししたことが、悔やまれて仕方がありません。

「人生の後半戦に住む場所は、現役世代中に考えること」と、2人の息子にしっかり伝えた真千子さんでした。

太田垣 章子 OAG司法書士法人 代表司法書士

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おおたがき あやこ / Ayako Ootagaki

専業主婦だった30歳のときに、乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」や、おひとりさま・高齢者に向けて「終活」に関する講演も行い、会場は立ち見が出るほどの人気講師でもある。著書に『老後に住める家がない!─明日は我が身の〝漂流老人〟問題』(ポプラ新書)、『あなたが独りで倒れて困ること30─1億「総おひとりさま時代」を生き抜くヒント』(ポプラ社)などがある。

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