広報の仕事をしているA子さんは、誰とでも打ち解けるコミュニケーション力に長けた性格の持ち主です。仕事のなかでは、クライアントやステークホルダーに対し、臆せずに発言したり質問したりできるA子さんですが、主治医に対しては、一歩引いてしまう場面があるようです。
筆者は在宅医として、患者さん宅を訪問して診察することがほとんどですが、地域の大学病院でも、定期的に診察しています。そこで感じるのが、病院の診察室では、どこか緊張気味で、遠慮がちな患者さんや家族が多いということです。
自宅ではくつろいだ雰囲気のなかで、聞きたいことを率直に聞いてくださる患者さんが比較的多いのですが、場所が病院となると少し緊張してしまう人も多いのでしょうか。途端に言葉が少なめで、何かと控えめになりがちなのです。
病院では遠慮気味になってしまう
患者さん目線で考えると、病院だとどこか遠慮気味になってしまう気持ちはわかります。病院から急かされているわけではないのに、「早くしないと」と気持ちが焦ってしまう人もいると思います。外来が混んでいればなおのことでしょう。
しかし、何かしら不調や症状があって診察を受けているのですから、わからないことをそのままにしてしまうのはよくありません。
不安も解消されませんし、患者さんや家族が病状について正しく理解ができていないことで、大切な判断ができない場合もあります。そうならないためにも、疑問に思ったことはその都度、しっかり聞こうとする姿勢をぜひ持っていただきたいです。
医師の視点でいうと、基本的に、我々医師は「患者さんに正しい情報をきちんと伝えないといけない」という責任感を持っているものです。ただ、それが強すぎると、とにかく情報を伝えることに必死になってしまい、ときに患者さんの話を聞くのがおろそかになってしまうケースがあるかもしれません。
前出のA子さんも、「診察室では一方的に医師が話し、私たちはそれを聞くだけになってしまう」と話していました。
こうした構図が生まれてしまうのは、限られた時間の中で、「とにかく情報を伝えないと」と必死になる医師に、「目の前の患者さんに必要な情報は何か」という視点が抜け落ちてしまっているからともいえます。
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