志望校合格も"中受離婚"夫婦の危機はなぜ起きた 「夜中2時に過去問コピー」40代男性のケース
20代の男性、ソウタさん(仮名)は、自分が中学受験生だった小5の秋に、両親の離婚を経験した。
中学受験の生活が始まってから、母親はソウタさんを頻繁になじるようになった。見かねた父親が止めに入ったことがある。それから、母親は父親を無視するようになった。食卓には父親の食器だけ出てこない。
「あれー、ママ、なんか忘れてるね。もう、しっかりしてよ~」
意図的に自分が無視されていることはわかっているが、父親はソウタさんの前ではおどけてみせる。その茶番が毎度くり返された。
さらに離婚を決定づける事件があった。母親の罵倒からソウタさんをかばおうと覆いかぶさった父親を母親が押した。父親がその手を払いのけると、「たたいたわね!」と母親は逆上。そこから両親の取っ組み合いが始まった。
それから1カ月ほどすると、離婚が決定したことを母親から告げられ、父親は本当に家を出ていった。家庭内暴力で離婚したと、母親は親戚中に触れ回った。しかし父親は頻繁にソウタさんに連絡をくれ、面会もできた。中学受験の最中も、中学生になってからも、大学の進路で迷ったときも、父親としてソウタさんに寄り添ってくれた。
夫婦仲破綻でも中学受験は成功か?
ソウタさんへのインタビューのあと、父親にも直接話を聞くことができた。
「もちろん悩んで苦しみました。でも、息子はすでに思春期にさしかかっており、必ずしも父親がいつも近くにいなくていい年ごろを迎えつつありました。
面会さえ認めてもらえれば、成長段階に応じた父親としてのメッセージは伝えることはできるはずだ。会えないときは手紙を書けばいい。そう考えて、妻からの離婚の提案を受け入れることにしました」
子どもは希望の学校に入れたが、両親の夫婦仲は破綻した。これらの中学受験は成功といえるのか?
以上三つのエピソードは、セミ・フィクションとしてまとめた拙著『中受離婚』(集英社)の取材成果の一部をルポとして改めて書き下ろしたものだ。
私は教育ジャーナリストとして中学受験に挑む家族を数多く取材してきた。なかには志望校合格のために払う犠牲が大きすぎると感じるケースもあった。