海外で「日本食材卸」大手3社が絶好調の納得理由 売り上げは5年で倍増、日本食の「黒子役」が躍進

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課題は日本酒の認知度の低さ。アメリカの酒類市場で、日本酒のシェアはたったの0.2%だという。

宝HD子会社の宝酒造インターナショナルで日本食材卸事業を担当する上辻尚美取締役は、「競争相手はワイン、ビール、ウイスキーと強力。卸事業の成長を通じて、和酒・日本食を文化として理解してもらうことが重要」と話す。

アメリカに20拠点を構えるウィズメタックは、国内メーカーの2社と違い、長年主力事業として海外向けの食材卸を手掛けてきた。

西本Wismettacホールディングスの新開裕之副社長。ロングセラーのラムネはコストコなど現地のスーパー向けにも取引が拡大している(撮影:梅谷秀司)

同社の特徴は、プライベート・ブランド(PB)を強みに市場を開拓してきたこと。PB商品がウィズメタックの食材卸事業の売り上げに占める割合は約4割に上る。メーカーからの仕入れが多い他社と比べ、PBなら現地のニーズや食品規制に合わせて商品開発しやすい。「例えば日本食の流行が変わった時に、需要に応える商品を素早く開発し販売できるのも当社のPBの強みだ」(新開副社長)。

市場は3社による「寡占状態」

日本食材卸事業で特筆すべきは、その利益率の高さだ。国内の食品卸会社の営業利益率は大手でも1%程度だが、海外で食材卸を行う3社の営業・事業利益率は約5~7%に上る。

要因は、日本食材の高い価値にある。例えば、食感の良さが好評なハマチやホタテなどの海産物、和牛など日本ならではの食材は収益性が高い。また、値上げが受容されにくい日本と違い、海外には高付加価値商品を適正価格で買う土壌がある。「価格競争ありきのメンタリティーを海外へ持ちこまないことを意識している」(キッコーマンの茂木専務)。

加えて、3社以外に目立った競合相手が見当たらない。中小の日本食材卸会社は多く存在し、正確に市場規模を測ることは困難だが、この業界はキッコーマン、ウィズメタック、宝HDによる「寡占状態」とみられるのだ。

その理由についてウィズメタックの新開副社長は、「海外で年々厳格化する食品規制がある」と話す。

この市場で勝ち抜くには、取引先の需要に応える豊富な商品の取り揃えが重要になる。しかし、国ごとに食品規制は異なり、数千~1万近くの品目で各国の厳しいルールをクリアするには多大な手間がかかる。「業界への参入障壁はかなり高い」(同氏)。

絶好調に思える日本食材卸事業だが、最大市場のアメリカにおいて、日本食レストラン数の伸びは鈍化してきている。

一方、アメリカにおける食事への支出総額のうち、日本食に充てられるのは1人当たり年間で1%程度だといい、まだまだポテンシャルはある。

市場の深化に必要なのは、日本食材の家庭への広がりだ。家で日本食を作るのはハードルが高いが、例えばしょうゆやソースなどの調味料は普段の料理に取り入れやすい。JFCは取扱商品を使って作るアメリカ料理などのレシピをホームページに掲載し、家庭への普及に向け工夫する。

近年は欧州市場の開拓も進む。2023年の欧州における日本食レストラン数は2021年比で約2割増加し、今後も日本食の需要拡大が期待できる。宝酒造インターナショナルは昨年スペインの、ウィズメタックは今年10月にイタリアの日本食材卸会社を子会社化した。

昨今はインバウンド消費の戻りもあり、日本食への注目はさらに高まるとみられる。海外における日本食を単なるブームから「日常食」へと進化させられるかが、今後の市場拡大のカギとなる。

田口 遥 東洋経済 記者

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たぐち はるか / Haruka Taguchi

飲料・食品業界を担当。岩手県花巻市出身。上智大学外国語学部フランス語学科卒業、京都大学大学院教育学研究科修了。教育格差や社会保障に関心。映画とお酒が好き。

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