M-1誕生の裏に天才ダウンタウンの「負の影響」 経営学者が読む新刊『M-1はじめました。』

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いま何気なく「つかみ」とか「枕」という言葉を使ったが、これらはかつては噺家たちの使う符丁だった。

それを関西出身のお笑い芸人たちが、自分たちのテクニック自体もネタにしたことで世の中に広めた。例えば「なんでここでツッコマヘんのや」とボケがぼやくことで、観客は笑いどころを意識しやすくなるわけである。

そうやってお笑いリテラシーが社会的に向上したことで、ますます精緻なネタが理解されやすくなり、芸人たちが競って技を磨いていった。その原動力のひとつが、本書でその立ち上げのプロセスが紹介される一大興業イベント、「M-1グランプリ」である。

ショービジネスの商品開発の好事例

著者は吉本興業社員としてM-1を立ち上げた人で、本書はその困難と達成を克明かつ詳細に記述している。ショービジネスにおける商品開発のケーススタディでもあり、若手芸人たちの生態を描いたドキュメンタリーでもあり、裏方から見たお笑い論、とも言える。

いまとなっては往事夢の如しだが、確かに2000年頃の漫才は停滞期にあった。本書によると、ダウンタウンのフリートークに憧れた大阪の若手漫才師がみんなダラダラしたおしゃべりをしてしまい、劇場で漫才禁止令が出ていたという。いわばある天才が起こしたイノベーションのインパクトで、業界が混乱に陥っていた。

その状況で、著者には改めて漫才を盛り上げようというプロジェクトが任された。

さまざまなアクシデントを乗り越え、M-1の第1回開催に漕ぎ着けるまで、読んでいて息苦しくなるような手探りの模索が続く。

次ページM-1の第1回が開催されるまで
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