九州工業大の「旧式半導体製造ライン」が再び輝く 30年前導入の「死蔵状態」から人材教育に活路

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こうした経緯で施設を開放し、ユーザーとやり取りを重ねていく中で、人材教育のニーズが高まっていることもわかったという。講座の充実や遠隔セミナーの発明につながった。

外部収入は2018年から年々増加し、2022年度は設備の使用料で約4400万円、講座の受講料で約2600万円に。外部収入は計約7000万円となり、ランニングコストのうち大学の負担割合は約11%まで低下した。

教育に注力するのは「リベンジ」

運営に余裕が生じたことで、一部の職員を自前で雇ったり、新たに装置を導入したりできるようになった。装置の使い方をレクチャーする「個別指導講習」や、遠隔セミナーを担当したスタッフには、収益の約2割をボーナスとして分配。職員の待遇改善やモチベーションアップにもつなげている。

九州工業大学の半導体クリーンルーム
九州工業大学マイクロ化総合技術センターのクリーンルーム(記者撮影)

教育講座を拡充するために、国から予算を獲得して教員4人の増員も決定。現在はリアルと遠隔で年間計15回のセミナーを、より多く開催できる体制を整える。2028年には現在の約3倍となる年2100人の受講者数を目指しており、その過程で運営費用はすべて自前の収入で賄えるようになる見込みだ。

さらに半導体の設計プロセスを学べる新たな研修を2024年度から始める。基本は遠隔での講義で、中高生でも理解できるよう、指導員が基礎から丁寧に教えるという。中村氏は一連の取り組みの意義をこう強調する。

「私たちの世代が半導体の業界に入った時、日本は世界一だった。その後、没落していったことに対して負い目がある。教育に注力するのはわれわれにとってのリベンジでもある。『技術立国ニッポン』の復活に貢献したい」

日の当たらなかった古い資産を活かし、社会貢献と経済的自立を実現させる同センター。産学官を問わず、その姿勢から学ぶべき点は多いはずだ。

石川 陽一 東洋経済 記者

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いしかわ よういち / Yoichi Ishikawa

1994年生まれ、石川県七尾市出身。2017年に早稲田大スポーツ科学部を卒業後、共同通信へ入社。事件や災害、原爆などを取材した後、2023年8月に東洋経済へ移籍。経済記者の道を歩み始める。著書に「いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録」2022年文藝春秋刊=第54回大宅壮一ノンフィクション賞候補、第12回日本ジャーナリスト協会賞。

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