九州工業大の「旧式半導体製造ライン」が再び輝く 30年前導入の「死蔵状態」から人材教育に活路
同センターが提供する4日間の講座は、クリーンルーム内での実習に座学をミックス。受講者が各装置を操作してシリコンウェハー上に集積回路を形成し、直径約2センチのチップに切り出すまでを体験できる。
「製造工程の仕組みや原理がよくわかる」と評判で、設備の古さをメリットに転換した。かつては年1回の開催だったが、現在は年10回ほどに拡充。参加費は約15万円と高額なものの、毎回のように定員14人が埋まる人気だ。
大人数にも対応するため、オンラインでの遠隔セミナーも2020年に始めた。ビデオカメラ3台を用いて、スタッフが半導体を製造する様子を実況中継。計8人のチームで役割分担し、現場でも見えないアングルの映像を届けたり、リアルタイムでの質疑に応じたりする。
初年度の受講者は12人にとどまったものの、メモリー大手のキオクシアが新人教育に採用するなど大手メーカーからの引き合いが強まり、2022年度は約500人が参加した。
一時は閉鎖の危機にあった
現在は盛況な同センターだが、「一時は閉鎖の危機もあった」と中村和之センター長は打ち明ける。
センターは約90台の装置を保有している。約30年前に数十億円を投じ、当時の最新モデルを導入したものの、利用者は主にセンター内の限られた数人だけ。機器のメンテナンスなどで維持費は年間約1億円に上り、外部収入もごくわずかだったため、ただでさえ厳しい大学の財政を圧迫していた。研究業績も伸び悩み、「費用対効果が見合わない」との声が学内で上がったという。
中村氏はNECで半導体設計の技術者として働いていた2001年、同センターで研究者へと転身。2018年にセンター長へ就任すると、「国立大学の持ち物は国民の資産だ。本来のポテンシャルを発揮させないまま終わらせるのは忍びない」と一念発起し、センターの改革に乗り出した。
全国を巡って他大学の半導体関連の施設や運営方法を視察。有償での設備供用に積極的な東北大の取り組みを参考に、保有する装置のオープン化を進めた。
まずは学内で半導体に関係がありそうな研究室を回り、教員らに「営業」をかけた。利用者数が頭打ちになると、福岡や東京で開かれる半導体関連の展示会へ出展。学外の利用者でも1時間あたり1000~4000円で各装置を使える手軽さをアピールした。
その甲斐あって全国の教育機関や企業から人が集まるようになった。現在は約50団体が、新型デバイスの開発や試作などの目的で同センターを活用している。
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