箱根の高級旅館が繰り出す「人手不足」解決の秘策 人口減で働き手がいない町の「逆転の発想」
円かの杜の最大の特徴は、従業員のシフトにある。通常の旅館やホテルは宿泊客からの予約があり、その予約数に応じて従業員のシフトを組んでいる。
だが、円かの杜の発想はその真逆だ。先に従業員のシフトを決め、その日の従業員の出勤状況に合わせて客室の稼働数を変動させている。具体的には1カ月前までは最低限の客室のみの予約を開放し、従業員のシフトが決まってから、20室ある客室の本格的な販売を始める。
「社員を獲得するためには労働環境を整え、(社員にとって)魅力的な会社にしないといけない。2017年ごろからしっかりと休みを取れるように制度を整えた」と、女将の松坂美智子氏は制度改革をした狙いを明かす。
多くの宿泊施設はこの販売戦略を採用していない
繁忙期でも従業員に無理なシフトや業務量を強いることはないこの制度は画期的ともいえるが、多くの宿泊施設はこの販売戦略を採用していない。
客室を満室稼働できないということは、機会損失につながり、旅館やホテルの売り上げを最大化できないからだ。多くのホテルや旅館は、ときには客室を安売りしてでも稼働率を8割など一定に保つよう努力している。
だが客室の高稼働を保つにあたって、ボトルネックとなるのが人手不足。箱根が抱える人手不足問題は、東京や地方都市のホテルよりも深刻といえる。宿泊施設が増加している反面、人口減少が続いており、「募集をかけても人が集まらない」状況が常態化している。
近年、箱根では宿泊施設のスモールラグジュアリー化が進んでいる。箱根町が発行している「統計はこね」によると、2013年には197軒あった旅館・ホテルが2022年には207軒と10軒増加した。こうしたホテルはきめ細かなサービスを行う必要があるため、規模に対して人員を多く雇う必要がある。
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