不祥事で露呈した日本生命の稚拙な「顧客本位」 組織内部に透ける経営陣へのいびつな忖度

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そうした付き合いの深い弁護士事務所の意見に耳を傾けていればよしとする意識が、日生のコンプライアンス(法令順守)部門をはじめとする対応に当たった職員たちになかったか、胸に手を当てて考えてみるべきだ。

不祥事をめぐる経営陣へのいびつな忖度は、今年7月の日生の総代会後にも見受けられた。総代会とは、株式会社の株主総会に相当するもので、保険契約者の中から選出された総代で構成される意思決定機関だ。

日生はその前月、横浜北支社の元営業部長が76件の契約を捏造していたと公表していた。現場の営業職員を統括する立場の管理職が、立て続けに不祥事を起こしたとあって、清水博社長がどう発言するのかが総代会の大きな注目点だった。

総代会の中盤で清水社長は元営業部長による2件の不祥事について触れ、「総代をはじめとするご契約者のみなさまや多くの方々にご心配をおかけし、誠に申し訳ない」と陳謝。そのうえで再発防止に向けてコンプライアンス教育の強化と徹底を約束した。

陳謝した場面をホームページからいったん削除

しかし、清水社長が160人超の総代を前に頭を下げ、事態を重く受け止めていることを印象付けたのは束の間だった。数日後に日生のホームページにアップされた総代会の動画では、なぜか陳謝した場面だけ削除されていたのだ。

日本生命は削除した理由について、「社長が陳謝した部分を切り取って(第三者に)悪用されるリスクなどを担当部署が考えた結果だ」と当時説明していた。が、経緯を知った一部の役員が激怒。すぐに修正するよう命じ、現在は陳謝部分も含めた動画に差し替えられている。

日生に限らず、生命保険業界では金銭詐取などの不祥事が相次いでいる。その対応に神経質になるのは無理もない。ただ、その意識が顧客本位に向かわず、上司への忖度や保身に向かうようなことが続くのであれば、日生をはじめ業界に向けられる視線は今後一段と厳しくなるはずだ。

中村 正毅 東洋経済 記者

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なかむら まさき / Masaki Nakamura

これまで雑貨メーカー、ネット通販、ネット広告、自動車部品、地銀、第二地銀、協同組織金融機関、メガバンク、政府系金融機関、財務省、総務省、民生電機、生命保険、損害保険などを取材してきた。趣味はマラソンと読書。

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