不祥事で露呈した日本生命の稚拙な「顧客本位」 組織内部に透ける経営陣へのいびつな忖度
この架空契約は、日生の福利厚生制度である「星友会」の名称を林被告が悪用して、でっち上げたものだ。捏造した募集文書(チラシ)では、「星友会短期積立てプラン」と称し、払い込んだ保険料に対する解約返戻金が2年間で1割増えるという試算表まで載せていた。
加入資格の欄には、「(日生の)役員・職員から推薦があった場合」は加入できるとあり、林被告から「私は成績優秀者なので、特別にAさんを推薦することが可能だ」などと言われたという。もちろん、その注記も林被告が勝手に作り上げたものだが、A氏は林被告の営業部長という肩書きもあって「信用してしまった」と話す。
A氏は林被告と面談するたびに、数百万円から1000万円単位の金銭を手渡し、林被告から「預かり証(借用書)」を受け取っていた。日生はそうした点などから、林被告との個人的な金銭のやり取りのように見受けられると指摘し、業務上の関連性はないとA氏に告げたとみられる。
ただ、今年10月18日に林被告が神戸地裁から懲役5年の実刑判決を受け、被害額の大半が認められたことを踏まえると、昨年末の段階で示した「弁済困難」という日生の姿勢は拙速であり、被害者側の事情を軽視した杜撰な対応だったと批判されてもやむをえまい。
顧客よりも経営陣の顔色を伺っているのか
日生は「顧客本位の業務運営」を経営の基本方針として掲げており、「あらゆる業務においてお客様のご要望に誠実・迅速にお応えし、お客様
本位で行動できるよう、本方針の浸透・定着に取組む」とホームページでうたっている。
にもかかわらず、刑法や民法などにおける義務やリスクにばかり目を向け、被害者の感情を置き去りにするかたちで、杓子定規な対応をし続けてしまったのではないか。
なぜそのようなことが起こるのか。背景には、日生の職員たちが顧客よりも、顧問弁護士や経営陣の顔色を伺いながら日々の業務に当たっているような組織風土が垣間見える。
今回の事案でA氏とやり取りしていたのは、虎門中央法律事務所の弁護士だ。同事務所は金銭詐取といった日生職員の不祥事対応を主に担っており、代表弁護士である今井和男氏は今年7月まで15年にわたって日生の社外取締役を務めていた。
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