「決まった答えがない」激ムズ東大入試の狙い 難しいことを「簡単な次元」に落とし込めるか

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実はこの入試問題、「あること」をしたことがある人には、とても有利な問題でした。それは「哲学ウォーク」です。

日常を「思考の場」に変える哲学ウォークとは?

これは、オランダの哲学者であるピーター・ハーテローが考案したもので、日本でもいろんなコミュニティで行われています。

やり方は簡単です。複数の人が集まって、いくつかの「哲学の名言」が書かれたクジを1本引きます。その後、みんなで歩いて、「その言葉に関連する」と思った場所があったら「ストップ!」と言って、自分が引いた言葉と、なぜその言葉が関連すると思ったのかをプレゼンし、他の人から質問をしてもらうというものです。

これは、哲学のことを知らない人でも哲学に触れられるだけでなく、哲学の言葉が媒介となっていつも歩いている風景が違って見えるようになるというものです。

例えば、こんなくじを引いたとします。

「深い闇の中にいるのなら、光を見つけることに集中しなければならない」(アリストテレス)

これに対して、トンネルを歩いているときに「今、トンネルの中が暗いから、あっちにある光が眩しく見えますよね。トンネルに入る前は明るく感じなかったのに。これと同じように、『闇の中でこそ、光がわかる』、ということなんじゃないでしょうか」などとプレゼンするのです。

この解釈が合っているのか間違っているかはどうでもよくて、その言葉を通して、自分の普段の生活や、日々生きている世界の情景を再定義することで、自分の人生を考えることが求められます。

僕もやったことがあるのですが、哲学と身の回りの情景を結びつけるのはとても大変で、だからこそ、その言葉をよくよく考えるきっかけになった記憶があります。

さて、この東大の入試問題は、まさに「哲学ウォーク」をしてきた学生であれば簡単に解くことができるでしょう。

「この道、よく歩いているけれど、普段はまじまじと観察することなんてない。でも、何かを探しながら見ていると、『こんな建物あったんだ』『こんな看板があるのか』と気づくことが多い。まさに、『人は見ようとしたものしか見ない』だな」

「こんな田舎には、英語での案内なんて書いていないだろうと思ってスルーしていたけど、よくよく確認してみたら小さく英語で案内が書かれているな。『人は見ようとしたものしか見ない』というのは、偏見があると、自分の視界に映るものも変わってしまうという意味なのかもしれない」

と、普段の何気ない日常の中で物事を考える習慣がある人なら、この問題は簡単に答えることができるのです。この問題で正解しようと思ったら、「最近あったこういう出来事が、まさにこの言葉を象徴していると感じる」という方向で書くのがいちばん答えやすいからです。

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