自由診療"やせ薬"の乱発で糖尿病患者が悲鳴 医師1時間当たりのノルマがある場合も

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肥満症は肥満とは別物だ。肥満は国際的な基準でBMI(体格指数)30以上、日本では25以上。それに加えて高血圧や脂肪肝などの合併症があるのが肥満症だ。ウゴービは、BMI27以上の肥満症患者が対象となっている。

成人の3分の1が肥満といわれる米国では、月額1000ドル(約15万円)と高額にもかかわらずウゴービ利用者が急増。2023年7月にはマンジャロが肥満症向け治験で患者の体重を平均26%も減らしたことが発表され、需要増に拍車をかけた。

こうした事態を受け、ノボとイーライリリーは立て続けに医療機関向け案内で「適応外使用(美容・痩身・ダイエット等)は厳にお控えください」と求めることになった。さらに厚生労働省、日本糖尿病学会もGLP-1薬の在庫逼迫を受け、適正使用を呼びかける通知や見解を出している。

問われる医師のモラル

しかし効果は乏しく、ダイエット目的での処方は続いている。メーカーの取引拒絶は独占禁止法に触れるため、注意喚起以上の行動は取りにくい。医療機関に販売する卸はというと、「医師に(糖尿病患者向けに)保険診療で使用していると言われれば、それ以上は突っ込めない」(医薬卸大手の営業担当者)のが実態だ。

問題は、健康な人に薬が処方されるケースだ。「薬の飲み合わせによっては重度の低血糖を起こすほか、命に関わる副作用も生じうる」と、千葉大学医学部附属病院長で肥満症専門医の横手幸太郎氏は警鐘を鳴らす。保険適用外の処方は費用が全額自己負担となるだけでなく、副作用で健康被害があった場合の救済制度(医薬品副作用被害救済制度)の対象外となる。

さらに「保険適用の薬は製造・流通の安全性が確保されているが、自由診療の薬はそうとは限らない。必要な温度管理がされないものや、不正品があってもおかしくない」(オンライン診療サービス運営企業社長)との指摘もある。

オンライン診療には別のリスクも潜む。「医師1時間当たりの処方ノルマがある場合には、本来必要のない患者に薬を出すこともある」(同前)のだ。薬が欲しい患者と薬を出したい医師とでニーズが合致しやすい状況では、リスクを考慮して薬を出さないという判断はしづらくなる可能性がある。

日本でも今年3月、ウゴービが初の肥満症薬として承認された。今の状況で発売されれば、糖尿病薬と同じく、真に必要な肥満症の患者に届きにくい状況となることは想像にかたくない。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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