マクドナルド、「小型店ひっそり開業」の深い意味 「新たな出店形態」を模索し始めた3つの理由

拡大
縮小

テイクアウト・デリバリー専門店はこういった新たな需要を取り込みながら、かつ「(お昼時のピークタイムに)店内飲食とデリバリーの注文を分散させることで、生産性を向上させることができる」(飲食店関係者)という意味合いもある。

テイクアウト・デリバリー専門店はほかにも、出店費用やランニングコストを縮小できるメリットもある。

小型店舗にすることで通常店舗よりも費用をかけずに出店することが可能だ。マクドナルドに先行してテイクアウト専門店を出店している吉野家ホールディングスの場合、「出店費用については通常店舗の6~7割程度に抑えられる」と、同社の中堅社員は明かす。

通常店より少ない人数の店舗スタッフで運営できるので、人件費を抑えられる。さらに、店舗が小型であるため、物件の賃料も安い。

マクドナルドは早稲田駅前のANNEX店の動向を見極めながら、2店舗目以降の出店を模索する。小型店舗の行方は、マクドナルドの成長戦略を占う試金石となる。

ケンタッキーも小型店舗を続々出店

小型店の出店を模索する飲食チェーンは、マクドナルドだけにとどまらない。ケンタッキーフライドチキンは2019年にテイクアウトに特化した専門店を東京・新宿に開業。その後も同タイプの店舗を出店し続け、2023年8月末には20店舗になった。

KFCのテイクアウト専門店
ケンタッキーフライドチキンのテイクアウト専門店。昼時はテイクアウトの客やデリバリーサービスの配達員で混雑する(記者撮影)

マクドナルドと同じようにドミナント戦略を意識し、すでに通常の店舗を出店しているエリアで、補完的にテイクアウト専門店を出している。日本KFCホールディングスの広報担当者は「商圏の広いエリアでは、通常店舗とテイクアウト専門店のどちらも、しっかりと売り上げを出せている」とする。

大手カフェチェーンのタリーズコーヒーも、客席を少なくした店舗を相次いで出店している。小型店舗「TULLY’S COFFEE -SELECT-」を6月に阪急三宮(兵庫県神戸市)の駅ビルに、7月には神戸三田プレミアム・アウトレット(兵庫県神戸市)内にそれぞれオープン。9月14日には、新宿の駅ナカに小型店舗を開店した。この新宿の店舗は6坪ほどの広さしかない。

「TULLY’S COFFEE -SELECT-」では、パスタなど一部のフードメニューをラインナップしていない。通常3種類のサイズがあるドリンクも、真ん中のトールサイズのみに限定。これらによりキッチンスペースを縮小し、業務も効率化できる。通常店舗に設置されているケーキ用のケースは置かず、客席も絞りこんでいる。

「コロナ禍を経て、駅ナカや空港、パーキングエリアといったエリアでの出店の要望が増えている」。運営会社タリーズコーヒージャパンのマーケティング本部・工藤和幸グループ長はそう話す。駅ナカなどの小さなテナントには通常店舗だと出店できなかったが、新しく開発した小型店であれば進出が可能になる。

外食業界を取り巻く環境は厳しい。消費者の行動様式の変化だけでなく、物価の高騰や人手不足の問題が顕在化。ある大手外食チェーンの関係者は「今の飲食店の形態だけでは、どこかで運営の限界が来る」と指摘する。新たな環境に対応した店舗形態を模索する動きは続く。

金子 弘樹 東洋経済 記者

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かねこ ひろき / Hiroki Kaneko

横浜市出身で早稲田大学政治経済学部を卒業。2023年4月東洋経済新報社入社。現在は外食業界を担当。食品ロスや排出量取引など環境問題に関心。

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