買われすぎの日米の株価はどこまで下落するか 日本株は割高ではないが、円安は織り込み済み

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では、日本株はどうだろうか。日本では、予想PERで見る限り、株価は割安ではないが割高でもない。TOPIX(東証株価指数)の予想PER(前出のファクトセット社調べ)は、近年は通常13~16倍で推移しているが、先週(18~22日、週平均値)は14.5倍で、ちょうど適正水準の中央に位置する。

ただ、とくに7月初めまで顕著だった株価の高騰は、日本企業の低PBR(株価純資産倍率)改善のための構造改革や日本経済のデフレ脱却(健全なインフレへの移行)といった「長期的構造的な変化」が「短期的に一気に進む」と誤解した「ツーリスト投資家」(日本についての知識が乏しい海外投資家)が、飛びついて買い上げたためだと判断する。

日本のことを熟知した海外長期投資家は日本を悲観視していないが、本当に構造改革が進むかどうか確認したいと、依然慎重な姿勢を崩していない。

どうやら、勝手に期待したツーリスト投資家は、「改革が一気に進むと思ったら、進捗が遅い」と勝手に失望しているようだ。例えば8月第1週から9月第2週の7週間で見ると、海外投資家の日本株現物投資はそのうち4週で売り越しとなっており、売り越し額も大きめだ。

筆者は日経平均株価の安値を2万7000円だと見込んでいるが、22日の終値(3万2402円)からわずか17%下にすぎない。加えて、前述の米国株と同様に、日経平均とTOPIXの下落率が同じ、企業収益予想値に変化がないと仮定すれば、日経平均2万7000円時のTOPIXのPERは11.9倍で、最近では昨年9月と同レベルだ。1年ほど前に現実にあったPER水準であり、とりわけ底を抜けるわけではない。

もし日経平均が2万7000円へ下落するとの見通しが途方もない暴落に思えるのであれば、7月初めまでの株価の上振れで視線が上に持ち上げられているからだろう。

円安の追い風も織り込み済み

日本経済・企業収益の実態面では、直近の8月分までの日本からの輸出金額が、2カ月連続の前年比マイナスに陥っていることが懸念される。一方で、株式市場では「円安だから輸出企業の収益は上方修正」との大合唱だ。

確かに、企業側が開示している自社の収益見通しにおいては、現状に比べてかけ離れた円高を前提としているところも多く、そうした企業の業績見通しは上方修正されるだろう。しかし市場は、現状の1ドル=145~150円のドル円相場は、アナリストの予想値とともにすでに織り込んでいるものと考えられる。

まだ対ドルで前年比円安であるにもかかわらず、世界経済の悪化に伴い、輸出数量は減退している(輸出数量の前年比は11カ月連続のマイナス)。そのことにより輸出金額が前年比マイナスに落ち込んでいるという「事実」を踏まえると、本当に現水準までの円安を輸出企業の株式の買い材料とみなしてよいかどうかは疑問だろう。

さらに、前述のようなアメリカ経済の悪化や同国株の下落が進展すれば、ドルが対円で大きく反落することがありうるだろう。「円安だから企業収益見通しは上方修正」とさけび続ける向きのはしごが外されて、地に落ちる可能性も、留意すべきだと考える。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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