ミシェル・オバマが"怪物"と語る「不安な心」克服法 夫の出馬で「突然バイクで空中に放りだされた」

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昔、CBSニュースのインタビューで、リン=マニュエル・ミランダが初めて舞台にあがったときのことを振り返り、公演前の不安は一種の「ロケット燃料」だと語っていた。

小学1年生のとき、彼は学校の演芸会でフィル・コリンズの歌を口パクで歌うことになっていたのに、激しい腹痛に襲われた。そのとき、自分の不安にどう対処するか、さらに大きな選択を迫られていることに気づいた。

「屈するか、支配するか、どっちかだって気づいたんです」と彼は言う。「ぼくは緊張をそんなふうに考えている。それは燃料源で[…]支配できれば船を動かしてくれるけど、支配できなければ爆破される」

それを聞いて、2009年にリン=マニュエルが初めてホワイトハウスでパフォーマンスしたときのことを思いだした。

あからさまに緊張していたリン=マニュエル

大統領就任記念のスポークン・ワードと詩のセッションに招かれたときのこと。彼は当時29歳で、あからさまに緊張していた。わたしたちのイベントで披露するために、彼は制作中の歌を急いで完成させていた。

のちにその歌は、大成功を収めるミュージカル『ハミルトン』のオープニング曲になるのだけれど、リン=マニュエルはそのプロジェクトに着手したばかりだった。まだ実験中で、素材が通用するか確信がなかった。

アレグザンダー・ハミルトンについてのラップを聴衆の前で――彼にしてみればとくに恐ろしい聴衆の前で――披露するのは初めてで、反応はまったく予想できない。その夜、この歌がうまくいかなければ、すべて投げださなければならないかもと思っていた。

これは不安でいっぱいの彼の心の声だ。メッセージははっきりしている。“失敗すれば、すべてを失う”。不安な心は緊張が頂点に達しているときに姿を現すのが大好きで、はっきりとした目的をもって登場する。すべてを拒否すること。舞台でくるくるまわるのには大反対だ。

その夜、盛装してスイートルームに集まった200人を前に、リン=マニュエルは舞台へあがった。自己紹介をして、かろうじて生まれたばかりのミュージカルの説明をはじめると、たちまち緊張が高まった。目がきょろきょろしはじめる。避難しなければいけないときのために、非常口の標識を探していたとリン=マニュエルは言い張っている。それに少しことばに詰まっていて、おかしな調子の声が出てさらに動揺した。

のちにリン=マニュエルは、その経験をポッドキャストのインタビューで振り返っている。「本気で緊張してたんだ」と彼は言う。「最初に大統領と目を合わせたんだけど、まちがいだった。“見たらだめだ、恐ろしすぎる”って気づいて」。それからわたしを見て、わたしのことも恐ろしすぎると思ったらしい。

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