JR東日本、列車丸ごと「荷物新幹線」本格化へ始動 客を乗せない専用列車でその日のうちに輸送

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JR東日本の深澤祐二社長は、新幹線の荷物輸送について「さまざまなパターンを試している」と話す。「これまでずっと車内販売準備室に荷物を載せてやってきて、固定のお客様もかなりついてきたが、もっとたくさん運びたいというニーズもある。荷物が増えると前後のオペレーションも含めて具体的にどこまでできるかを、今年度中に何回か試してみる」。

6月16日には東北新幹線で貨客混載、8月31日には上越新幹線で荷物専用の列車が運行した。そして、9月28日には北陸新幹線で荷物専用の列車が運行する。長野から東京まで1、2、7~9号車の5両を活用、東京新幹線車両センターで長野から到着した荷物の一部を東北新幹線に載せ替えて仙台に運ぶという載せ替え輸送に伴うオペレーションも検証する。また、AGV(無人搬送車)も活用し、人手不足を考慮した省力化も図りたいとしている。

目標は「2024年度以降の多量輸送の事業化」。深澤社長は、「座席と座席の間に入れるカートを造ってそれでかなりのものが運べるので、当面はそれでやっていく」と言うが、将来、さらに需要が増えてきたら座席を取り除いた荷物専用の車両を導入するようなことも考えたいという。

JR貨物はどう見ている?

では、荷物輸送の大先輩であるJR貨物にとって、JR東日本の動きはどう映るのか。JR貨物としては、「旅客会社が現在運んでいるのは軽量の荷物に限られている」として、JR貨物とはすみ分けができていると考えている。また、JR東日本が新幹線を使ったスピーディーな輸送を売り物にしているということは、在来線の貨物列車で輸送するJR貨物と価格面でもすみ分けが図られるはずだ。

一方で、物流業界には残業規制でトラック運転手不足が懸念される「2024年問題」が迫っている。JR貨物はこれをビジネスチャンスと捉えているが、JR東日本の「新幹線荷物輸送」にも追い風となりそうだ。

もし荷物専用の新幹線列車が頻繁に運行するようになったら、JR貨物も傍観してはいられないだろう。同社の2030年を見据えた長期経営計画「長期ビジョン2030」には総合物流事業の推進という目標達成のために新幹線のインフラを有効活用するといった説明がされており、長期的視点では新幹線に関心を持っていることがうかがえる。どのような形で実現されるにせよ、新幹線荷物輸送の本格化に向け舵を切る時期が迫っていることは間違いなさそうだ。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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