初めて採用された小学校では担任を任された。ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大を受けて全国の小中高校が一斉休校に入った時期である。多くの先生が手探り状態の中、トモキさんは毎日学級通信を発行することにした。ところが、これが保護者からの評判がよかったせいか、逆に他クラスの先生の不興を買ってしまったという。
あるとき、先輩教員の1人から「俺たちのペースに合わせてくれ」と暗に発行をやめるよう言われたが、トモキさんは従わなかった。やがて学校が再開して事務作業が増えると、連日早朝5時から深夜0時までの長時間勤務が続くように。結局、トモキさんは2カ月足らずで過労で倒れてしまう。その後は担任業務を外され、病気休職の末に任期を終えた。
また別の学校では、管理職から新興宗教に入るよう勧誘された。断ると、「『入らないなら、今後の教員人生はないぞ』と脅された」とトモキさんは証言する。事実であれば大問題だが、所管の教育委員会も取り合ってはくれなかったという。
さらにある学校では、任用された最初の月の給与が半額しか支払われなかったことも。管理職らに訴えたが、いまだに未払いのままだという。トラブルの末、1人だけ印刷室で勤務させられたこともある。悪質な民間企業が社員を自主退職させるために使う「追い出し部屋」のようなものだ。
「病気の人はいらないんだよね」
加えて悪いことは重なるもので、トモキさんは半年ほど前に指定難病である「強直性脊椎炎」と診断される。背骨や骨盤、腱(けん)、じん帯などに炎症が起きる疾患で、トモキさんの場合は目や膝、手指に支障が出ており「成長痛をひどくしたような痛みがある」という。
この疾患をめぐっても最近、副校長から呼び出され、「病気の人はいらないんだよね」「男の人よりも女の人のほうが使いやすい」などと言われた。それまであまりに信じがたい経験が続いたことから、このときのやり取りはひそかに録音もしたという。
それにしてもトラブルが多すぎるのではないか。学校の先生の労働実態については取材で見聞したこともあるが、残念ながら異様な長時間労働がまかり通っているのは事実だ。トモキさんが初職の小学校で学級通信を発行し続けた熱意は立派だが、過労で倒れるのは時間の問題だったようにもみえる。
私の指摘に対し、トモキさんは「このときは、嫌がらせでほかの学年の事務作業まで押し付けられた」と反論する。そのうえでこう持論を述べた。「そもそも臨時的任用教員は同じ人間として扱われていないんです」。
新興宗教への勧誘や追い出し部屋への隔離、給与の未払い──。たしかにトモキさんが正規教員と対等な存在とみなされていれば、ここまでずさんな対応はなされなかったかもしれない。
トモキさんはこの間、精神的なストレスから複数回にわたって病気休職をした。当時、休職中は無給だったため(現在は有給化)、年収は正規教員の半分程度の250万円ほど。難病発症後は、医療費が月5万円を超えることもあるが、症状が基準に達していないという理由で現時点では医療費助成の対象ではない。
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