アサヒ、キリンの「ジャニ問題」対応にみる課題 テレビなどメディアも含めて問われる人権意識
取引先で起きた人権侵害であっても、取引関係を利用して積極的に関与し、問題の是正に貢献するよう求めている。重要なのが、取引関係の解消は「最後の手段」として慎重に行うべきとしている点だ。取引停止で監視の目が届きにくくなるなどし、状況が逆に悪化する可能性があるからだ。
キリンは「契約満了をもって終了」であり、「取引を停止したわけではありません」と説明する。ただ、アサヒやキリンが個社で定めている人権方針には、人権侵害が発覚すれば取引停止や契約を更新しない措置を取るといった記載はない。
自社の掲げる人権方針とどう折り合いをつけて、今回の判断を下したのか。経営陣は消費者や投資家を含むステークホルダーに対し説明することが必要だろう。
そうでなければ、自社の人権方針は形骸化しており、風見鶏のような対応に終始しているとの批判を免れないのではないだろうか。どのような根拠に基づいて判断したのか正確な説明が重要だ。
メディアが果たすべき取り組み
今回のジャニーズ問題の波紋は大きく広がりつつある。ほかの芸能事務所では同様の問題が起きていないのか、が次の論点になるからだ。「枕営業」などの言葉に象徴されるように、元々、芸能界自体が性加害問題の起こりやすい業界構造にあるといわれている。
「ほかの芸能事務所でそういったことが起きていないかを精査しなければ、人権方針に則った対応とはならないのではないか」(冨田氏)。「ジャニーズさえ切ればよい」と短絡的に考えているのだとすれば、むしろ人権意識が希薄だと批判されても仕方ないだろう。
そして、こうした批判はテレビをはじめとするメディア企業にも向けられている。再発防止特別チームは、長年にわたって問題を放置し被害を拡大させた責任の一端はメディアにあると指摘しているからだ。
「テレビ各局は自身の責任を果たすという観点が足りないのではないか。自ら第三者委員会を設置して事実究明を行ったり、再発防止のためにタレントが被害を通報できる窓口をテレビ局に設置したりする必要がある」
「ビジネスと人権」に詳しい蔵元左近弁護士はそう指摘する。人権デューデリジェンス(自社の活動が人権に負の影響を与えていないか、リスクを特定して対応する取り組みのこと)も当然求められる。
テレビ東京ホールディングスは9月14日にジャニーズ事務所に対し、経営改革や被害者への補償を早期に行うよう申し入れを行った。具体的な成果が得られるまで、ジャニーズタレントの番組への新規出演依頼も慎重に判断する方針だ。
テレビ局の中でジャニーズ事務所に対する働きかけを行ったことを、誰でもみられるHPで明らかにした点は評価できる。しかし、自社の取り組みについてはまるで聞こえてこない。ジャニーズタレントを番組に起用するか否かに議論が終始してしまうと、問題の矮小化にもつながる。
企業が掲げる「人権尊重」は、看板倒れにすぎないのではないか。そのような批判を払拭するためにも、ジャニーズ問題を契機に自社の人権対応を顧みるべきだろう。
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