植田総裁発言で揺れる金利と為替、真意はどこに 8月の転換、「年内マイナス金利解除」はあるか

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とはいえ、上述したように、もはや賃金は「建前」の理由でしかない可能性も考慮する必要がある。

結局、1月になるか、4月になるかは「本音」の理由である円安次第という側面もあろう。昨年の対ドル相場の安値である152円を超えて定着するような事態になった場合、円安抑止の意味を込めたマイナス金利解除が決断される可能性はある。

現状、筆者はFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が徐々にハト派色を強めることも踏まえれば、あくまで152円程度までの上昇しか見込んでいない。よって、円安が2024年1月のマイナス金利解除を招来するとまでは考えていない。

マイナス金利解除があるとすれば、2024年4月、「2年連続で春闘の結果が力強いものになる」ことを確認した場合と考えておきたい。

ちなみに、マイナス金利解除の場合、イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)撤廃はそれ以前に(もしくは同じタイミングで)想定しないのかという疑問は当然出てくるだろう。

この点、筆者はYCCはマイナス金利解除時のショックに備えるために残すのではないかと思っている。

マイナス金利が解除されれば、おそらく市場参加者のみならず、日本社会全体で「ついに利上げ」の大合唱になるはずであり、イールドカーブも必要以上に歪みが生じる可能性がある。日銀も制御装置としてのYCCは温存したいのではないか。

Q5:円相場見通しに対する影響は?

為替の予想レンジは円高方向に修正へ

これまでドル円相場見通しを検討するうえではリスクシナリオとしてもマイナス金利解除は非現実的なものだった。しかし、今回のインタビューをもってリスクシナリオの1つに格上げされたと考えておきたい。

もちろん、正式には9月21~22日の決定会合を踏まえ、発言の真意を見極めるべきだが、仮にマイナス金利解除を2024年4月のリスクシナリオとして織り込んだ場合、予想レンジは以下のような下方修正を検討することになるだろう(あくまで9月12日時点のレートを前提にした場合、である)。

2023年10~12月期「146~151円」→「143~148円」
2024年1~3月期「144~150円」→「140~146円」
2024年4~6月期「142~148円」→「138~144円」

しかし、冒頭で紹介したように、植田総裁はあくまで「可能性としてはゼロではない」と述べているだけだ。

年内にマイナス金利解除の可能性が現実的に認められる展開自体、日銀にとってもまだメインシナリオではないのだと筆者は理解しているし、それゆえ為替相場見通しにおいてもメインシナリオにする必要はないというのが基本線である。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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