東大助教が解説、消臭剤が「悪臭だけを消す」理由 嫌なにおいを消して良いにおいを消さないのは…

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市販の消臭剤では、これらのマスキング効果と、分子の構造を変える仕組み、そして分子を吸着する仕組みを組み合わせている場合が多いようです。消臭ビーズのように据置型のものは吸着剤を多めに、スプレー型のものだと分子の構造を変える薬剤を多めに配合しているはずですが、内訳は商品の表示欄を見てもわかりません。

各メーカーが工夫して編み出した配合は企業秘密でしょうね。

芳香剤の香りが消えないのはなぜか

では、消臭剤で悪臭は消えるのに、消臭剤に入った芳香剤の香りが消えないのはなぜなのか。

それは硫化水素の硫黄やアンモニアの窒素などの悪臭のもとになる元素が入った分子は多孔質材料の孔にくっつきやすい一方、リモネンを含むテルペン類などの芳香をもつ炭化水素はくっつきにくいからなんです。香り分子で孔に吸着しやすいものもありますが、芳香剤にはそうでないものが選ばれているということです。 

(出所:『素朴な疑問VS東大 「なぜ?」から始まる学術入門』)

このような多孔質材料には、物質を吸着するという性質だけではなく、不安定な化合物を孔の中に取り込むことで安定化させるという効果も知られています。私は、その性質をうまく利用して、繊細な構造をもつ酵素を剛直な多孔質材料の孔に閉じ込め、いわば鎧を纏わせる方法で、固体触媒としての酵素の新しい機能について研究しています。

強い結合を切って新しい結合をつくるには、熱を加えたり強い試薬を使ったりと無理を強いるものが多いのですが、常温下で無理なく反応させられるのが酵素です。植物や菌類などから抽出でき、現行の触媒に使われる貴金属より入手しやすい点も重要です。

酵素は、生体内の反応を効率よく促すことのできる優れた触媒として知られていますが、生体内から取り出してくると壊れやすいという難点があります。そんな酵素に鎧を纏わせることで、酵素のもつポテンシャルをうまく引き出し、生体外の様々な反応に利用できるのではないかと考えています。

また、多孔質材料として私が注目するのは、酵素を入れやすいサイズの孔をもつメソポーラスシリカ。将来的には、廃棄されたバイオマスやプラスチックから有機合成に必要な原料を再生したいと思っています。

(出所:『素朴な疑問VS東大 「なぜ?」から始まる学術入門』)
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