太陽光や風力発電は脱原発の受け皿となれるか、新エネルギーへの期待と課題

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 難しいのは、太陽光発電システムの価格はすでに引き下げ余地が限定的になっていることだ。太陽電池メーカーは生産工程効率化などの努力を行ってはいるが、実際、太陽光発電システムのコストの約半分が工事や販売の経費で占められる。人件費に多くを左右される部分で合理化がしにくい。国は30年をメドに、原発並みのコストに引き下げる目標を掲げるが、ハードルは高い。

課題の第二は、天候任せで不安定という太陽光発電の性質である。電気はそれ自体では貯められない“生もの”だ。発電されたら直ちに使わなければならないが、太陽光発電では日中、しかも天候がよくないと十分に発電できない。安定的な電源として使うには何らかの蓄電システムの設置が追加的に必要になる。このコストもまた巨額だ。経済産業省の試算によれば、30年の太陽光発電導入目標を前提にすると、系統安定化などで最大6兆円もの蓄電装置費用が必要になる。

結局、本命と目される太陽光にも欠点がある。現時点ではどの新エネルギーも発展途上で、直ちに原発の対抗馬となれそうな技術は見当たらないのが実情だ。したがって、新エネルギーの導入には政治的な推進を続けることが不可欠となる。

電力業界は、こうした問題点を列挙し、新エネルギーには及び腰な態度を取ってきた。重要なことに、エネルギー政策の枠組みを作る経済産業省内で、電力業界と関係が深い部署(電力・ガス事業部)は、新エネルギーを担当する部署(新エネルギー部)より立場が強い。

さらに「民主党内では、環境・エネルギー分野に精通した政治家が全然育っていない。このため、この分野での政策決定の主導権は、自民党時代以上に経済産業省が握っている」(環境活動家として知られる飯田哲也・環境エネルギー政策研究所所長)。
 
 東京電力福島第一原発事故の収束が見えてくれば、電力業界が経済産業省と一体になって、既存の事業基盤を守れる従来型エネルギーへ傾いていく、というのが今後起きそうなシナリオだ。

原発事故に恐怖した日本人が、再び従来型エネルギーに回帰することを是とするのか。それとも目先十数年、電力の不足や料金高に耐えつつ新エネルギーへの転換を図るか。国民一人ひとりの決断が問われる。
(週刊東洋経済2011年4月30日−5月7日合併号 写真撮影:今井康一)

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