エンター・ザ・ドラゴン C.S.ブラック著 鬼塚弘訳
この小説の英文タイトルは『2060TOKYO、JP.USA』。2060年の日本はアメリカ合衆国の51番目の州となり、ジャパン州となっている。
短命で弱体な国内政治が続き、軍備という国の基本をアメリカに頼る日本は、2060年にはアメリカの一州となるという選択をした。独立ではなく、アメリカに合併されることで生き残ろう、というのが日本の選んだ生き残りの策だった。
中国が、強大な経済を背景に軍事力でも巨大国家にのし上がり、近隣諸国に大きな圧力を加えていることも、日本のアメリカ合衆国ジャパン州への最終的な選択の背景をなす要因となっている。
この小説の主人公は、若き私立探偵の瀧岡隼。瀧岡隼の父は、日本がアメリカのジャパン州に「合併」する際に、それを積極的に推進した大物政治家である。政治家である父は、日本がジャパン州になる直前に不可思議な事故死を遂げている。
この小説は、瀧岡隼がトウキョウ・シンジクのタブキタウンで謎の韓国系の老人キムと出会うことから始まるハードボイルドだ。日米合併に潜む“闇の反対勢力”が瀧岡隼の敵であり、結論からいうとエンターティメントとしては一級品の仕上がりとなっている。ハードボイルド好きを自認する著者のブラック氏だが、小説の語り口や構想力はなかなかのものだ。
頼りない日本がアメリカに「合併」を求め、“闇の勢力”との闘いにおいてもワイルドな韓国系の支援で救われる。ジャパン州のひ弱さがこのハードボイルド小説の「根底」になっている面もあり、フィクションではありながら、やや日本の心もとない現状を考えさせられる。
著者のブラック氏は、アメリカ人の父と日本人の母を持つビジネスマンで、シンガポールに在住の46歳。高校まで日本に在住したとのことだが、日本の政治・経済については熟知しており、その「危機感」や「現状認識」について違和感のようなものはまったくない。
この小説では、男女のロマンスやからみはほぼ封印されており、ほとんど「男だけの世界」、“マン・ウィズアウト・ウーマン”で構成されている。それでも楽しめる物語なのだから、ブラック氏の筆力はかなり“凄い”ものだ、とも言える。
幻冬舎ルネッサンス 1575円
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