【産業天気図・鉄道/バス】鉄道中心に堅調。減損のかく乱あるが利益の基調も強い

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非上場の西武鉄道を除く、私鉄大手14社の2005年9月中間業績は順調だった。14社合計の売上高は3兆4973億円で、前年同期比1.5%増。増収会社は10社、減収は4社だった。景気回復や好調だったゴールデンウイークの人出、愛知万博効果などで全般に順調だった私鉄勢だが、地域的には基調として、総じて関東のほうが強かったようだ。東京急行電鉄<9005.東証>など関東7社の売上高は同7.4%増、関西5社は同10.5%減と明暗を分けたように見えるからだが、これには東急が百貨店等を連結化して大幅増収となったのに対し、近畿日本鉄道<9041.東証>は子会社の連結除外で売り上げを大きく落としたといった特殊要因が含まれているので、注意が必要だ。
 売上高に占める鉄道事業、さらには運輸業の比率は決して高くない私鉄各社だが、鉄道の輸送人員を見ると、これも全般に好調だった。上期に輸送人員が増加したのは東急、小田急電鉄<9007.東証>、京王電鉄<9008.東証>、京浜急行電鉄<9006.東証>、相模鉄道<9003.東証>、京成電鉄<9009.東証>の関東6社と阪急ホールディングス<9042.東証>、阪神電気鉄道<9043.東証>、名古屋鉄道<9048.東証>の合計9社だった。京成は12年ぶり、相鉄は10年ぶり、阪急も特殊要因があった年を除くと1991年以来の増加となった。逆に、減少したのは関東では東武鉄道<9001.東証>1社、近鉄、南海電気鉄道<9044.東証>、京阪電気鉄道<9045.大証>の関西3社、西日本鉄道<9031.東証>の5社だった。
 こうした輸送人員の堅調ぶりは今下期も変わらないようで、通期売上高は14社合計で2.3%増の7兆1906億円と『会社四季報』では予想している。ちなみにグループ再編などの影響が残った前05年3月期は前期比で4.8%の減収だった。
 鉄道など運輸事業の利益に占める比率が高いことから、利益ベースでは、さらに堅調さがうかがえる上期業績だった。14社合計の営業利益は前年同期比9.1%増の2884億円、経常利益は同14.0%増の2247億円、中間利益は同7.4%減の656億円。営業増益会社は13社、減益は前上期に減損対応で不動産販売益を増やしていた小田急1社だった。鉄道、流通等が総じて堅調、こうした本業に加えて減損対応をにらみ不動産販売で利益をカサ上げするケースが今期もあった。中間利益が増益7社、減益7社にとどまったのは減損処理のためで、大きな特損を計上したのは東武、京急、京成、近鉄、阪急、阪神、南海の7社。このうち近鉄、南海は上期赤字となった。東急も持ち分会社の東急不動産<8815.東証>と世紀東急工業<1898.東証>が減損を実施したことから、営業外損益が悪化した。

◆燃料高によるバス事業の下期懸念など乗り越え通期営業増益の可能性も

通期営業利益は前期比1.2%減の5108億円、経常利益は同0.8%増の3910億円、純益は同6.8%増の1742億円と『四季報』では見ている。合計で営業減益予想になっているのは、一つには私鉄業界独特の「固め予想」が影響しているためだろう。また、下期には軽油値上がりでバス事業の収益が圧迫されるケースもあるし、減損対応を終えた小田急の場合は建物付属設備の償却法を定率法に変え、一段と減益幅を拡大させたりしている。ただし、営業増益予想会社は11社、減益予想会社は3社であり、14社合計営業利益の着地点はプラスとなる公算もある。純益は8社が増益、6社が減益と見込んでいる。
 続く2007年3月期は、14社合計売上高で0.1%増の7兆2010億円、営業利益は1.0%減の5057億円、経常利益は1.3%減の3860億円、純益は13.4%増の1975億円、と『四季報』では予想している。私鉄が経営する鉄道、流通、不動産、レジャー・サービス事業は景気が堅調で、個人消費が伸びる状況ではプラスの影響を受ける。減損対応の不動産販売が減るというかく乱要因はあるが、現状、07年3月期業績が基調として悪化する方向にはないだろう。
 長く苦しんできたバブル後遺症の処理やグループ再編をほぼ終え、私鉄各社は本格的な少子高齢化社会・人口減少社会に備えた動きを強めている。具体的には、自らの沿線価値向上を目指した攻めの経営であるエリア再開発や、鉄道事業を軸としながら、その周辺にどう成長・育成事業を位置づけるかというグループ戦略の明確化、再構築の動きが強まっている。
【中川和彦記者】


(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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