京都や富士山で「観光公害」マナー違反の深刻実態 自然環境保全が困難、世界遺産登録抹消の危機感

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海外はどのような対策を打っているのだろうか。アメリカでは国立公園に入場料金が課せられている。たとえば車1台に対して1週間有効で25ドルといった具合。年間パスは80ドル(車1台)で、1年間有効だ。

フランスでは観光客数の入域制限が実施されている。北部ブルターニュのブレハ島は1日4700人。マルセイユ近郊のカランク国立公園は予約システムを活用し1日400人となっている。

年間320万人の観光客が訪れるイタリアの水の都ヴェネツィア(人口約5万人)は、押し寄せる観光客によって生活物価が高騰、住宅価格も上昇し市民生活を圧迫してきた。

2018年に観光客流入を抑制するために入場料徴収条例案を制定したが、その直後の大洪水被害で実施を延期、さらにコロナ禍で延び延びとなっていた。そうした経緯を経て今年8月29日、ルイージ・ブルニャーロ市長が「来年から試験的に日帰り旅行客に入場料を課す」と宣言した。入場料は最大10ユーロ(約1590円)になるという。

日本の観光政策に矛盾

では日本はどうするのか。岸田首相は8月26日、訪問先の沖縄で「マナー違反による混乱等、いわゆるオーバーツーリズムへの懸念についても、政府としても重要課題だと受け止め、この秋にも対策を取りまとめていきたい」と、ようやく重い腰を上げ始めたが、どれだけ実効的な策を打ち出せるか。

そもそも安倍政権以降、一貫して「観光立国」を掲げる政府はインバウンド誘致に邁進してきた。最近では巨額の滞在マネーを落としてくれる富裕層旅行者(高付加価値旅行者)の受け入れに熱心だ。

政府はこれまで「2030年訪日外国人旅行者数6000万人、消費額15兆円を目指す」としてきた(2016年の「明日の日本を支える観光ビジョン」)。今年3月に閣議決定された「観光立国推進基本計画」では訪日外国人旅行者数について「令和7年までに令和元年水準超えにする」(令和元年実績3188万人)と、やや控えめながらも回復・拡大戦略が打ち出されている。

さらに今年の観光白書では、

観光地や観光産業における「稼ぐ力」の好循環の実現

という文言が出てくる。コロナからの回復に向けた動きの中で、稼ぐことの必要性を強調しているのだ。誘致一辺倒、稼ぐ力が最優先というアクセル全開の拡大路線を突き進んでおきながら、今ごろになってオーバーツーリズム対策と言い出すありさま。観光白書は「持続可能な形での観光立国の復活」とうたっているが、政府が目指す「観光立国」は本当に国民の幸福につながるものなのだろうか。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログでは、最新の病状などを掲載中。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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