JAL社長が明かす「パイロットの条件」とは? 機長出身の社長だからこそ知っている"裏側"

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ところが、パイロットの訓練というのは、横に神様のような教官がいて、その人が四六時中横にいて見ているわけです。かつ、自分の能力がそのまま計器に数字で出てくる。「ほーれ、ほれほれ。そろそろ高度が狂うよ。ほれ、狂ったやろ?」なんて、横にいる教官にすべてを見透かされると、自分が“素っ裸”にされるような気持ちになる。それで必死になって勉強しても、次の日もまた失敗する。こんな訓練を何年も繰り返すんですよ。普通の人間なら落ち込みます。

一時はあきらめた訓練生たちも再び夢に向かう

2010年の経営破たんは、思い出すのも辛かったと語る植木義晴社長

――2010年の経営破たんの時は、大幅な路線のリストラを行っています。その時にJALを辞めたパイロットも多くいました。

当時は現役のパイロットにも辞めてもらったくらいなので、これからパイロットになる訓練生を養成することは、とてもできませんでした。思い出すのも辛いけれど、当時JALに入社したばかりのパイロット訓練生150人に、「君たちには、もうパイロットの道はないんだ」と伝えたのは私なんです。

彼らは職種別採用という形で、つまり「パイロットにしてやる」という約束で採用され、パイロットを夢見てJALに入った人たち。僕の話を聞いて、彼らはみなその場で泣きました。泣いて、一言も出なくなって、しばらくしてみな怒り始めました。「約束が違うじゃないか」と。それでも彼らのうち120人ほどがJALに残り、パイロットでなく財務・経理や空港業務などの総合職に異動しました。

だから彼らは、僕のことをいちばん恨んでいていいはずなんですよ。なのに(破綻から)1年後の(2011年)6月29日、1周忌じゃないですけれど彼らが「1年目の会」というのを開いて、僕を呼んでくれました。

――彼らは今、どうしているのですか。

あれから5年が経ち、おかげさまでJALの業績は回復しています。再びパイロットが必要な状況になり、彼らをもう一度パイロット訓練生に戻しました。今は米アリゾナのトレーニングセンターで訓練を始めています。「心の中で待ち焦がれていた訓練に、ようやく入れる」と言って旅立っていきました。

この前、視察に行ってきたんです。「どうや?」って声をかけたら、「植木さん、もっとはっきり言ってくれればよかったのに。訓練ってこんなに厳しいんですね」だってさ(笑)。彼らも破綻後の数年間、地上で必死になって頑張ってくれたけれど、自分を素っ裸にされるほどの訓練は初めて。「こんなに厳しいのか」というのを今、味わっています。でも、これを乗り越えた者だけがパイロットになれる。面白いよ。

(撮影:梅谷秀司)

平松 さわみ 東洋経済 記者

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ひらまつ さわみ / Sawami Hiramatsu

週刊東洋経済編集部、市場経済部記者を経て、企業情報部記者

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