日米韓首脳会談・中国からの報復に緊張高める韓国 「キャンプデービッド」の入場料は途方もなく高かった

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しかし同じ日、中国国営新華社通信は「夏の猛暑が続いているが、キャンプデービッドからまき散らされた冷戦の雰囲気に世界は寒気を覚えた」とする論評を配信。アメリカを厳しく批判したうえで「日韓がアメリカの覇権維持のための駒となるのをやめ、歴史の誤った側に立つことのないよう忠告しておく」と強く牽制(けんせい)した。

前回の大統領選に向けて有力候補に欠いていた保守陣営が、検事総長だった人物を担ぎ出して誕生したのが現在の尹政権である。尹氏自身の周辺にもともと各分野のスペシャリストが存在したわけがなく、さまざまな保守グループの寄り合い所帯のような様相でスタートした。

とりわけ外交安保統一政策では、2008年からの5年間を担った李明博(イ・ミョンバク)政権を支えた関係者が目立つ。そんな関係者たちが李政権時代に大きく失望し、うまくいかなかった1つが中国との関係だった。

李政権は中韓の経済の結びつきを強めようと力を入れた。韓国経済への良い影響を狙った側面も当然あるが、もう1つ別に期待したのは、中韓関係の強化により、中国と北朝鮮の関係にもくさびを打ち込めるはずだと期待したためだ。

だが北朝鮮の相次ぐミサイル発射にも中国は強い態度で臨もうとせず、李政権をいらだたせた。当時とは比べようもないほど米中対立が深まっている情勢を受け、尹政権は中国と距離を置く。それは「相互尊重」が基本だとし、中国の出方に合わせて、硬軟いかようにも対応すると主張する。

違和感横たわる大統領室と実務陣

そんな尹政権の政治的なメッセージには大きな変化が見られないが、実務レベルの受け止めは決して楽観的ではない。そもそも今回の3カ国会談をめぐる受け止めからして、その所在地から「龍山(ヨンサン)」と呼ばれる大統領室と、外交省など関係省庁とは異なった。

3首脳は2023年5月に広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせ、短い時間、意見を交わした中で、バイデン氏がアメリカでの日米韓首脳会談を持ちかけた。

だがその後、会談の実現に向けた詰めの協議が順調に進んだとはいえず、日本政府関係者からは「アメリカの債務上限問題で外交日程に影響が出たため、方々で会談をやる、やると言ってまわっているだけではないか」といぶかる声が出るほどだった。

それが2023年6月後半になって、にわかに動きが加速。7月には、数々の歴史的な外交交渉の舞台となってきた、キャンプデービッドでの3首脳会談開催がほぼ確実となった。

これを受け、韓国大統領室幹部は繰り返し、キャンプデービッド会談の特別な意味を報道陣へのブリーフで強調し、会談前から「歴史的」「画期的」と称賛した。だが大統領室の高揚感と対照的だったのが実務者たちだった。会談が近づくにつれ、担当者らの間では重苦しい空気が漂うようになった。

合意文書を作る過程で、韓国政府が望む北朝鮮への強い姿勢が盛り込まれた。大量破壊兵器や弾道ミサイル計画の資金源になっているとみられる不正なサイバー活動に対し、日米韓でワーキンググループを立ち上げることや北朝鮮の人権問題、さらに3カ国での共同訓練を毎年、定期的に実施する意図があることなどが発表された。

北朝鮮のミサイル警戒データのリアルタイム共有は2022年11月の日米韓の「プノンペン声明」でうたわれたが、実際に運用するとなると、さほど簡単にはいかない。それでも技術的能力の初期的な措置はすでに実施されたことも合意文書で明らかになった。

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