「必ず後に続く」訓練で散った特攻仲間への「誓い」 待ってろ、明日には出撃命令が出るはずだ
機が逆さまに田んぼのなかにめり込んで、完全にひしゃげていた。近所の人が何事かと集まってくる。
「松海!」
トラックから飛び降りると穂を付ける寸前の稲をかき分けて機に駆け寄った。4人が続く。風防が吹っ飛び、機首は地面にめり込んでいた。機体は「く」の字になって、主翼がちぎれていた。続いて到着したトラックからも整備兵や兵隊が降りてきた。
「松海!」
操縦席の前部にのめり込んでいる飛行帽を摑んで引き起こす。
計器盤が血だらけになっていた。飛行服を抱きかかえようとするが、中身がぐちゃぐちゃになってしまっていることが判った。
それでも5人で力を合わせて操縦席から引っ張り出した。
必ず後に続く
「火がつくと危ない。さっさと離れろ!」。誰かが叫んだ。
「トラックに乗せましょう」。整備兵が叫んだ。
荼毘(だび)の準備ができたのは日が落ちてからだった。読経が始まるなか、井桁(いげた)に組んで積み上げた木に火がつけられた。
翌日の昼に火が収まり、5人で遺骨を骨壺に納めた。絹のマフラーに骨壺を包んで寄宿先の民家に帰った。松海の遺品を片付け始めた。将校用行李を開けて風呂敷包みを持ち上げると、行李の底に折りたたんだ半紙の束が目にとまった。手にとって広げると、
『後に続くを信ず』
壬生で一緒に酒を飲んだ特操の同期生が残していったものだ。
「あいつ、こんなものを持っていた」
琢郎は、誰に言うともなくつぶやいた。
「あいつ、俺の飛行機を持って行ってしまったが、俺はあいつが乗るはずだった機でも赤トンボでも何でもいい。必ず後に続く」
「よおし、待ってろよ、松海」
安倍が拳を突きあげた。大石も続けた。後藤、青木と続いた。
「明日にはきっと出撃命令が出るはずだ」
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