「必ず後に続く」訓練で散った特攻仲間への「誓い」 待ってろ、明日には出撃命令が出るはずだ
根城の人達が「えんぶり」を披露してくれた。「えんぶり」は、馬の頭をかたどった烏帽子をかぶった太夫が種まきから稲刈りまでの一連の流れの所作を踊るもので、見ていて楽しいものであった。夜は、海岸に近い鮫町(さめまち)で宴会である。
街の人達が赤飯や餅、八戸名物のせんべい汁などを持ち寄り、特攻隊要員達は、海猫が鳴きながら飛び交う景色を観賞しながら、大いに飲み、大いに舌鼓をうった。その晩は鮫町の旅館で久々の布団にくるまって、ぐっすりと寝たものである。
後に続くを信ず
朝霧が飛行場を覆っていた。この日は払暁(ふつぎょう:明け方)訓練であった。特攻機が敵機に襲われた時を想定し、敵の銃撃を躱(かわ)して逃げる訓練であった。
5機が上空で旋回しながら訓練の順番待ちをしていた。松海(まつみ:琢郎と同じ特攻隊に所属し、仲の良かった戦友)の機は不調で飛べないので、琢郎の機を使っていた。順番に降下して敵機役の機から逃げていた。
やがて松海に順番が回ってきた。最初の攻撃を躱して態勢を整えようと左に旋回したが急旋回しすぎて錐(きり)揉み状態になった。高度1500メートル。上空の皆がまずい、と一瞬思った。
「早く態勢を立て直せ!」
やがて水平錐揉み状態になって、機影は朝霧の中に消えた。
「大変だ!」
全機が降下し、朝霧の中を飛び回って松海機を捜した。そして全機、とにかく競うように滑走路に降りた。
「松海機が落ちた!」
大石が地上で待機していた琢郎に叫んだ。ピストからも待機中の操縦士が、何事かと出てきた。
琢郎達はトラックに飛び乗り、墜落したと覚しき場所めがけて門を出た。そこには一面、水田が広がっていた。1キロほど北の水田から煙が上がっているのが目に入った。トラックはその方向を目指して走った。