永野芽郁と鈴木京香の「復讐劇」世界2位のワケ 原作が人気漫画のNetflix「御手洗家、炎上する」

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炎上する御手洗家の前で土下座して謝る母親役の吉瀬美智子(画像:Netflix)

決してシリアスに走り過ぎず、コメディのように笑いを狙っているわけでもなく、単純に滑稽なキャラクターたちによるほっこり人間ドラマとして成り立っていることも人気の理由にありそうです。

終盤にかけてこの要素が高まっていきます。御手洗家の炎上の真相が核心に迫るなかで、SNS創成期の「mixi」が答えを探るカギとなりながら、ドラマの中で13年前の杏子の母親と真希子の人間関係が解き明かされていく過程もあります。世代によっては懐かしくもあり、ここだけは妙にリアルなmixi文化が描かれています。mixiを心の拠り所としていた両者の素顔が見える場面です。

世界44カ国でTOP10入り

復讐劇なのにぬるま湯的で、程よくイラつかせるキャラクターが続々と登場し、人間ドラマの情緒もあるドラマなわけですが、日本国内のNetflixウィークリーランキングでは1週目は2位、2週目1位、3週目も2位と上位をキープしています。

国内ばかりか、世界各国の非英語作品を集計したNetflixウィークリーランキングでも好成績です。1週目から4位に位置づけ、2週目は2位、3週目に入っても8位にランクインしています。これまで最高の世界2位の時点では44カ国でTOP10入りし、アジアはもちろんのこと、中南米やスペインで人気があることが注目すべきポイントです。

1990年代に流行った「ジェットコースタードラマ」のような二転三転する展開や、わざとらしくもある伏線がわかりやすく回収してくれる作りは古臭くも感じますが、ラテン系のドラマファンにとって超定番の人気の作風です。約15年にわたって、世界のドラマトレンドをリサーチしていますから、断言できます。たとえば、犯罪ものであっても、中南米やスペインで作られた人気ドラマは、いわゆるラテンノリの成分が入っています。復讐劇そのものも人気なうえに、今回の「御手洗家、炎上する」は全体のテイストもマッチングした結果だと思います。

以前であれば、地域に合わせてローカライズするリメイクでヒットする類の作品ともいえ、日本で制作されたままでこれだけの成績を作ることができたことから、新たな可能性も感じます。SFなど高額予算が求められるジャンルでなくても、ある程度の予算をかければ、成功しやすいことを証明しています。

主な舞台となる「御手洗家」のリビング。写真は左から恒松祐里、中川大志、鈴木京香、濱田マリ、及川光博(画像:Netflix)

ちなみに御手洗家の室内は、角川大映スタジオ内に大規模なセットを作り込んで撮影されています。玄関からセレブ感を漂わせ、1階から中2階に上がる階段を作って高低差から広がりを表現し、一面ガラス張りの窓から差し込む光の反射量も計算し、撮影に臨んでいるそうです。チープに見えがちな現代ドラマでも、コストをかけるべきところにかけることの大事さを物語っています。

最後に1つだけ人気の理由を付け加えるならば、後味の良さも挙げられます。杏子役になりきった永野芽郁のラストの笑顔を見るために、完走する価値あり。幸せ探しの物語も詰め込んでいることに気づきます。

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長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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