保守党大勝!イギリスはEU離脱に向かうのか 英国総選挙の予想外の結果が欧州揺さぶる

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保守党支持者が、世論調査段階では投票の真意を隠す現象は「シャイ・トーリー(内気な保守党支持、トーリーとは保守党の別称)」と呼ばれ、「シャイ」になる理由は異なるが、メージャー政権が誕生した1992年総選挙の際にもみられた。1992年総選挙当時に労働党党首であったキノック男爵は、今回の選挙直前に行われた英誌とのインタビューの中で、「『シャイ・トーリー』は(労働党にとって)危険だ」と述べており、その警告が当たってしまった形だ。

無論、こうした投票行動の傾向だけでなく、保守党の経済政策への評価がそれなりに高かったことや、選挙直前に所得増税の5年間凍結等の政策を打ち出したことなどが、選挙結果に影響を与えた面もあるだろう。

独仏でもEU懐疑派の勢力が拡大

新政権の政策の中で最も注目されるのは、保守党が公約している、英国の欧州連合(EU)からの離脱(Brexit)の是非を問う国民投票の行方であろう。保守党単独政権となったことで、国民投票が実施される可能性は高まった。

今後、保守党はEUからの権限回復交渉を行ったうえで、2017年末までに国民投票の実施を目指す予定である。キャメロン首相が目指す権限回復交渉の具体的内容の詳細はまだ分からないが、移民に対する社会保障の制限、EUの法制に対する英国を含む各国議会の拒否権獲得、リスボン条約が掲げる「絶えず緊密化する同盟」原則の撤廃などが含まれる可能性が高い。

欧州委員会のユンケル委員長は、英国とEUの関係について「(英国の)アイディアや提案を楽しみにしている」とキャメロン首相に伝えたとされるが、EU側の警戒感は強い。2017年はドイツでは連邦議会選挙、フランスでは大統領選挙が実施される重要な年である。独仏共にEUに懐疑的な勢力が伸長しており、政治的には難しいタイミングとなっている。

保守党内のEU懐疑派は、英国がEUから離脱したとしても、EUとの新たな貿易協定の合意は可能で、英国は成長していけると考えている。しかし、Brexitが実現した場合、EUの単一市場に留まることで得られていた「ヒト・モノ・カネ・サービス」の4つの自由な移動が制限される可能性がある。英国の金融面、貿易面からの大陸欧州とのつながりの深さを考えれば、Brexitが実現した場合の影響は大きい。

調査会社YouGovが2月に実施した世論調査によれば、EU残留の支持率は45%と離脱支持(35%)を上回り、足元で上昇傾向にある。昨今の景気回復が残留支持率上昇に貢献している模様だ。また、もし何らかの権限回復に英国が成功した場合は、残留を支持するだろうとの回答が57%となっている。

しかし、国民投票が実施される時点での経済環境は分からないうえ、世論はテレビ討論ひとつで変わり得る。さらに、事前の調査結果が必ずしも正しい訳ではないことは、今回の総選挙が証明したことでもあろう。

吉田 健一郎 みずほ総合研究所 上席主任エコノミスト

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よしだ けんいちろう / Kenichiro Yoshida

1996年一橋大学商学部卒、富士銀行(現みずほ銀行)入行。対顧客為替ディーラーとして勤務の後、2004年からみずほ総合研究所に出向。20089月よりロンドン事務所長、201410月より現職。ロンドン大学修士(経済学)。著書に『オイル&マネー』(共著、エネルギーフォーラム社)、『迷走するグローバルマネーとSWF』(共著、東洋経済新報社)など。

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