昨年9月に出した『「育休世代」のジレンマ』という本で、私は出産後の女性が「過剰な配慮」を受け、それまでやりがいを感じていた仕事から離れてしまって退職を選ぶ様子や、「管理職にはなりたくない」「働けるだけでありがたい」と意欲を冷却していかざるをえない様子を分析しました。
前回書いたように、育児中の社員の仕事量が減っているのであれば一時的な報酬で差をつけることは必要だとは思います。ただ、ここで企業がやりがちなのは、育児中社員の評価をするうえで仕事の質(生産性や能力)は変わらないのに、一時的な報酬だけではなく、長期的な昇進の見込みや成長機会への挑戦まで閉ざしてしまうことです。
仕事の質 vs. 時間
そこで、私の本では企業の育児中社員の扱い方について、仕事の質が変わらなければ、昇進や次の仕事の責任の重さなどはきちんと考慮し、処遇することを提案しています。
たとえば、残業を含めて20時間かけて98%の極めて完成度の高い資料を出す人と、10時間で90%のクオリティのものを迅速に出す人だったら、どちらが優秀と言えそうでしょうか。あるいは、同じ個人が90%の仕事を98%まで高めるために、さらに10時間割くべきでしょうか。
どうしてもコンペを勝ち抜きたい、細部にこだわるクライアント先に提出する資料だったら、100%近くまで完成度を高めることが重要かもしれません。でも、スピードが重要だったり、社内の提出資料だったりするのなら、90%の資料を作る後者のほうが圧倒的にコストパフォーマンスがよさそうです。
経営サイドから見ても、本来は限られた時間で成果を出してくれるほうが組織にとってプラスなはずです。
働きがいのある会社として世界的な評価も高いP&Gでは、目標管理制度の下で「Efficiency」(効率性)も評価の基準となるといいます。たとえば、個々人がある成果を達成するのに、たとえばどれくらいの工程数、人員を必要としたかについても評価対象になる可能性があるのです。
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