心が強い人は「過去を捨てる」を習慣にしている ただ目の前のことに集中することの大切さ
だが、ラグビーはそうではない。前半40分+後半40分=計80分という試合時間が決まっていて、時間内に相手を上回らなければならない。
一方的に押し込まれる試合展開になってしまった場合には、「時間的に絶対に追いつけない点差」「100%負けるとわかっている」中でも、プレーをし続けることになるし、し続けなければならない。
負けるとわかっている試合で何を思うか
「もう、負けるとわかっているのに、そういう時、何を考えてプレーしているんですか?」
そんな直球の質問をされたこともある。結論から言うと、僕は「何も」考えていない。少なくとも、スコアのことは一切考えない。
トゥイッケナム(イングランド)でのイングランド代表戦も、残り時間10分で32点差だった。イングランド代表相手に、わずか10分の間に5トライ獲って5本のコンバージョンキックを決めるのは、現実的に不可能。勝利は絶望的だ。こうした状況は日本代表戦だけでなく、キャプテンを務めているトヨタの試合でも、これまでも数えきれないほどあった。
そんな時、僕はチーム全員を集めて必ずこう伝える。
「スコアボードを見るな」
なぜか。過去は、変えられないからだ。
もちろんキャプテンとして出場している以上は、スコアボードは見ているし頭に入れている。残り時間や点差を常に計算し考えてはいるけれど、それはあくまでも僕個人のキャプテンとしての仕事。選手としての仕事は別だ。
メンバー1人1人が、自分に与えられた役割を80分間まっとうすること。それが選手として課されている唯一の仕事だ。
たしかにスコアは重要だが、それはそこまでの結果。もう過去のことだ。恨めしくスコアボードを眺めていても点差は縮まらないし、タックルミスで失った5点が帳消しになるわけでもない。どんなに頑張っても過ぎ去った時間は取り戻せないし、ここまでの結果はもう変えることはできない。
どうあがいても、過去には自分の影響を及ぼせないのだ。スコアボードは、その過去が書いてあるだけのものだ。
唯一、そこから僕たちの力で影響を与えられることがあるとすれば、それは目の前で起きていることだけ――向かってくる相手とのコリジョン(ぶつかり合い)であり、相手のボールを奪うことであり、1センチでも前に進むこと、それしかない。
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