インフルエンサーが「あえて炎上」する納得の理由 無料情報の背景にアルゴリズムや経済的合理性

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これは、あるコミュニティで支持された言説が、価値観の相容れない別のコミュニティにうっかり届いてしまったことで生じている不幸な化学反応かもしれない。筆者の周囲にも「最近X(Twitter)が殺伐としすぎている」「何か書き込んだらすぐに見当違いな批判コメントが届く」と疲労感を吐露するインフルエンサーは幾人もいる。その感覚の原因は、この現象でほぼ説明できてしまうのではないかと思う。

結果、それ以前に積極的に発信してきた人が、SNSでの発信の頻度を落としてしまったり、あるいはコミュニティを有料の壁で守ることができる「サロン」などに発信を閉じてしまうケースが多く見られるようになった。要は、文脈を共有できる(言い換えると話の通じる)フォロワー、ファンだけを有料の壁の中に囲い込んで、その人だけに発信する。その発信手段に適した収益獲得のモデルが課金である、ということなのだ。

そんな殺伐とした「拡散サバイバル」のような状況下でも、日々大量に発信を続けて、むしろ強化していこうとするインフルエンサーもいる。彼らの多くに共通するのは、前述の設計思想のアルゴリズムに合わせて「極論」や「エッジの立った意見」で大衆の関心を集めるという生存戦略だ。

1%の熱烈な支持を得られればいい

爆発的に拡散することで、結果99%の人に嫌われても、1%の人から熱烈な支持を得ることができれば、それをお金に換えたり、票に換えたりすることができる。そんなビジネスモデルを持つインフルエンサーが政界やビジネス、芸能の界隈でも見られるようになってきた。

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極論で耳目を惹きつけて、あえて炎上を起こすような手法は当然大きな代償を伴う。だが、経済合理性を持ったモデルとして回すこともできる。

やっている当人も注目を集めることが快感である、あるいは批判や中傷が苦にならないといった強靭なメンタルの持ち主かもしれない。だからこそ、何度炎上しても発信をやめず、むしろより強化していくことになる。

日頃、X(Twitter)をはじめとしたSNSでの情報体験になじんでいる読者の方であれば、ここまで書けば心当たりがある、顔が目に浮かぶ人がいるだろう。こうしたインフルエンサーの発信するコンテンツは、多くが無料である。YouTubeを主戦場とするインフルエンサーであれば、再生回数を広告収益に変えて収益化するために、きょうも「可燃性」の高い発信に勤しむ。

多くの人にとっては、ネットでは有料で入手するコンテンツよりも、無料で触れるコンテンツのほうが圧倒的に多いだろう。それらは、ここまで述べてきたようなアルゴリズムのしくみや経済合理性を意識して「作られている」側面があることを忘れてはいけない。

米重 克洋 JX通信社代表取締役

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よねしげ かつひろ / Katsuhiro Yoneshige

1988年(昭和63年)山口県生まれ。聖光学院(横浜市)卒業後、学習院大学経済学部在学中の2008年に報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、国内の大半のテレビ局や新聞社、政府・自治体に対してAIを活用した事件・災害速報を配信するFASTALERT、600万DL超のニュース速報アプリNewsDigestを開発。AI防災協議会理事。

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