北海道「並行在来線」貨物存続に立ちはだかる難題 費用と複雑な「支線」の扱いで議論紛糾の可能性

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逆に、函館―新函館北斗間以外は旅客列車を走らせずに貨物専用線とするのであれば、膨大な維持費を誰が負担するのか、議論は紛糾必至だ。JR貨物の犬飼新社長は以前から「当社がすべて負担することは現実的ではない」と話している。

だが、藤城支線がなくなるだけでも貨物列車の運行には大打撃となる。JR貨物のDF200形ディーゼル機関車は、最大20両の貨車を牽引して七飯―大沼間の本線の急勾配(最大20パーミル、1000m進むごとに20m上る)を上ることはできない。JR貨物の関係者によると、機関車を2台連結して牽引、もしくは補助機を後ろにつけて押し上げるか、貨車を減らして対応するしかないという。「機関車や運転士の手配も必要で、連結には時間もかかる」(JR貨物関係者)。さらに、藤城支線が存在することで事実上の複線となっている区間が、本線のみとなって単線になればダイヤに大きな支障も出る。

DF200牽引の貨物列車
北海道で主流のJR貨物DF200形ディーゼル機関車(写真:杉山茂)

問われる道庁の覚悟

一方、貨物路線を維持するためのスキームを議論する有識者会議も先行きはまったく見通せない。三セクなどが線路を保有・維持し、JR貨物が列車を走らせる上下分離が軸になるとみられるが、並行在来線の大部分が貨物専用線になった例はない。格安の線路使用料で旅客路線に貨物列車を走らせることができる「アボイダブルコスト(回避可能費用)ルール」が通用するのかといった「そもそも論」から問い直されることになる。費用面に加え、保線や土木工事を担う人員確保も見通せない。JR北海道に人的余裕がなく、「保線要員の派遣は不可能」(JR北海道関係者)だからだ。

いずれにせよ、並行在来線のあり方をどうするかは一義的には地元の問題だ。道は「全国的な貨物ネットワーク維持の観点から、国が中心となって検討を行うものと考えている」(鈴木直道知事)と他人事だが、農産物や宅配便の輸送の多くを担う鉄道貨物の存廃は道内経済にも大きな影響をもたらす。結局、地元の道が主体性を持たなければ、議論は堂々巡りを続けることになる。

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森 創一郎 東洋経済 記者

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もり そういちろう / Soichiro Mori

1972年東京生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科修了。出版社、雑誌社、フリー記者を経て2006年から北海道放送記者。2020年7月から東洋経済記者。

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